【エリーゼ視点】
その日の午後。
商業ギルドでの用事を終えた私とレオンは、ギルドの裏口から出た先の閑静な通りで、最悪の人物と行き合うことになった。
「――やはり、ここにいたか。エリーゼ」
冷ややかで、傲慢な声。
振り返ると、そこには数人の騎士を従えた、ヴァルハイト公爵家の長男であり私の兄、ギルバート・フォン・ヴァルハイトが立っていた。前世の記憶にある彼の顔は、妹であるエリーゼをいつも「道具」としてしか見ていない冷酷なものだったが、今もその瞳には侮蔑の色が乗っている。
「お兄様……」
「我が公爵家の名を汚して逃げ出したかと思えば、このような薄汚い街で平民の真似事か。見苦しい。ジュリアン殿下の婚約破棄の一件は、王宮でも物議を醸している。お前は一度王都へ戻り、しかるべき処置を受ける義務がある」
義務。処置。
彼の口から出る言葉には、妹への心配など微塵もない。あるのは「公爵家の世間体」だけだ。
前世の病院で、私の病状よりも「治療費の世間体」を気にしていた親戚たちの顔が重なり、胸の奥から激しい怒りが湧き上がってきた。
私が言い返そうとした、その時。
ザザッ、と力強い足音が響き、私の前に大きな影が立ちはだかった。
銀色の髪をなびかせ、大剣の柄に手をかけたレオンだ。彼の背中からは、周囲の空気をピリピリと震わせるほどの、圧倒的な威圧感(殺気)が放たれている。
「何奴だ、貴様。公爵家の馬車馬に牙を剥くか」
ギルバートが不快そうに眉をひそめる。
「俺はエリーゼの護衛だ。この方の意志に反して、連れ去ろうとする者は何人たりとも通さない」
レオンの声は、地を這う狼の唸り声のように低く、絶対的な拒絶を孕んでいた。
その日の午後。
商業ギルドでの用事を終えた私とレオンは、ギルドの裏口から出た先の閑静な通りで、最悪の人物と行き合うことになった。
「――やはり、ここにいたか。エリーゼ」
冷ややかで、傲慢な声。
振り返ると、そこには数人の騎士を従えた、ヴァルハイト公爵家の長男であり私の兄、ギルバート・フォン・ヴァルハイトが立っていた。前世の記憶にある彼の顔は、妹であるエリーゼをいつも「道具」としてしか見ていない冷酷なものだったが、今もその瞳には侮蔑の色が乗っている。
「お兄様……」
「我が公爵家の名を汚して逃げ出したかと思えば、このような薄汚い街で平民の真似事か。見苦しい。ジュリアン殿下の婚約破棄の一件は、王宮でも物議を醸している。お前は一度王都へ戻り、しかるべき処置を受ける義務がある」
義務。処置。
彼の口から出る言葉には、妹への心配など微塵もない。あるのは「公爵家の世間体」だけだ。
前世の病院で、私の病状よりも「治療費の世間体」を気にしていた親戚たちの顔が重なり、胸の奥から激しい怒りが湧き上がってきた。
私が言い返そうとした、その時。
ザザッ、と力強い足音が響き、私の前に大きな影が立ちはだかった。
銀色の髪をなびかせ、大剣の柄に手をかけたレオンだ。彼の背中からは、周囲の空気をピリピリと震わせるほどの、圧倒的な威圧感(殺気)が放たれている。
「何奴だ、貴様。公爵家の馬車馬に牙を剥くか」
ギルバートが不快そうに眉をひそめる。
「俺はエリーゼの護衛だ。この方の意志に反して、連れ去ろうとする者は何人たりとも通さない」
レオンの声は、地を這う狼の唸り声のように低く、絶対的な拒絶を孕んでいた。


