銀狼騎士は転生悪役令嬢と番になる運命でした

【レオン視点】
公爵家の追手の目を欺くため、俺たちは一時的に宿替えをすることにした。
選んだのは、平民街のさらに奥にある、獣人や亜人が多く暮らすいささか寂れた区画の宿だ。ここなら人間の騎士団も滅多に立ち入らない。
だが、急な移動だったため、用意できた部屋は「一部屋」だけだった。
「すまない、エリーゼ。しばらくの辛抱だ。俺は入り口で夜通し警戒に当たる」
「ううん、レオンも昨日からほとんど眠っていないでしょう? 横になって」
部屋の中央にある、少し小さめのベッドを前に、エリーゼは真剣な顔で俺を見上げてきた。
「だが、男女が同じ部屋で、しかもベッドが一つというのは……」
「国境の宿でも一緒だったじゃない。それに、私を一人で寝かせる方が心配でしょう?」
エリーゼにそう首を傾げられると、言い返せなくなる。確かに今の状況下で、彼女を俺の視界から外すわけにはいかない。
結局、俺たちはベッドの上に並んで腰掛け、背中を壁に預ける形で夜を明かすことにした。
狭いベッドの上。
否応なしに、エリーゼの肩と俺の腕がぴったりと密着する。
衣服越しに伝わってくる、彼女の柔らかい体温と、かすかなハーブの甘い香り。それが俺の獣としての本能を、これ以上ないほどに刺激していた。
(落ち着け……彼女は信頼して隣にいてくれているんだ)
俺は必死に理性を保とうと、銀色の耳をぴんと立てて外の物音に集中した。だが、隣にいるエリーゼが、ふう、と小さくため息をついて、俺の肩にトスンと頭を預けてきた瞬間、俺の思考は完全に停止した。
「……エリーゼ?」
「ごめんなさい、ちょっとだけ、こうさせて。レオンの隣、すごく安心するの」
彼女の声は少し眠気に震えていた。
前世で孤独に震えていた彼女が、今、俺をこれほどまでに信頼し、その小さな身体を預けてくれている。その愛おしさに、俺の胸はちぎれそうになるほど高鳴った。
俺はそっと、彼女の細い肩に手を回し、自分の引き締まった身体の方へと引き寄せた。まだ抱きしめるには早い。だが、彼女を脅かす全ての影から守るように、俺の翼(腕)の中に、その小さな命を包み込んだ。