【レオン視点】
エリーゼの気配が、一瞬で凍りついたのを俺の五感が敏感に察知した。
彼女の視線の先にあるのは、王国からやってきたという騎士団。その中心にいるのは、仕立ての良い豪奢な旅装を纏った、傲慢そうな顔つきの若い貴族の男だった。
(あれは……ヴァルハイト公爵家の人間か)
エリーゼの記憶の断片から、俺はその男の正体を割り出す。エリーゼを「出来損ない」と見捨てた、彼女の血の繋がった兄だ。
「レオン……っ」
エリーゼが俺の服の袖を、今までにないほど強い力で、縋るようにギュッと握りしめてきた。彼女の指先は小刻みに震えており、顔色からは血の気が引いている。
せっかくあの白い天井の悪夢から抜け出し、この街で自分の足で歩き始めた彼女が、かつての『檻』の影を見ただけでここまで怯えている。
その事実が、俺の胸の奥にある獣の血を激しく沸騰させた。
「エリーゼ、こっちへ」
俺は薬草の籠を地面に置き、エリーゼの細い腰を抱き寄せて、市場の大きな荷馬車の陰へと滑り込ませた。
彼女の小さな背中に手を回し、俺の広い胸の中にすっぽりと閉じ込める。外界の危険から、不浄な視線から、彼女を完全に隠匿するための、俺だけの『檻』だ。
「レオン……ごめんなさい、私、また弱くなって……」
「謝るな。お前は弱くない」
胸の中で、消え入りそうな声で呟くエリーゼ。俺は彼女の耳元に口を寄せ、低く、けれど絶対的な確信を込めて囁いた。
「大丈夫だ。あの男たちが何のためにここへ来ようと、俺がお前を絶対に渡さない。お前を再びあの冷たい場所に連れ戻そうとする者がいるなら――たとえ王国の軍勢であっても、この大剣で悉く叩き切ってやる」
ドクン、ドクンと、俺の胸に押し当てられたエリーゼの心臓の鼓動が、徐々に落ち着きを取り戻していくのが分かった。
俺の身体から伝わる熱が、彼女の恐怖を溶かしていく。
「……うん。私、レオンを信じてる」
彼女は俺の胸に額を預けたまま、小さく息を吐き出した。
まだ、恋人としての確かな約束を交わしたわけではない。けれど、この危機の中で、彼女が誰よりも俺を頼り、俺が誰よりも彼女を守りたいと欲していることは、紛れもない事実だった。
エリーゼの気配が、一瞬で凍りついたのを俺の五感が敏感に察知した。
彼女の視線の先にあるのは、王国からやってきたという騎士団。その中心にいるのは、仕立ての良い豪奢な旅装を纏った、傲慢そうな顔つきの若い貴族の男だった。
(あれは……ヴァルハイト公爵家の人間か)
エリーゼの記憶の断片から、俺はその男の正体を割り出す。エリーゼを「出来損ない」と見捨てた、彼女の血の繋がった兄だ。
「レオン……っ」
エリーゼが俺の服の袖を、今までにないほど強い力で、縋るようにギュッと握りしめてきた。彼女の指先は小刻みに震えており、顔色からは血の気が引いている。
せっかくあの白い天井の悪夢から抜け出し、この街で自分の足で歩き始めた彼女が、かつての『檻』の影を見ただけでここまで怯えている。
その事実が、俺の胸の奥にある獣の血を激しく沸騰させた。
「エリーゼ、こっちへ」
俺は薬草の籠を地面に置き、エリーゼの細い腰を抱き寄せて、市場の大きな荷馬車の陰へと滑り込ませた。
彼女の小さな背中に手を回し、俺の広い胸の中にすっぽりと閉じ込める。外界の危険から、不浄な視線から、彼女を完全に隠匿するための、俺だけの『檻』だ。
「レオン……ごめんなさい、私、また弱くなって……」
「謝るな。お前は弱くない」
胸の中で、消え入りそうな声で呟くエリーゼ。俺は彼女の耳元に口を寄せ、低く、けれど絶対的な確信を込めて囁いた。
「大丈夫だ。あの男たちが何のためにここへ来ようと、俺がお前を絶対に渡さない。お前を再びあの冷たい場所に連れ戻そうとする者がいるなら――たとえ王国の軍勢であっても、この大剣で悉く叩き切ってやる」
ドクン、ドクンと、俺の胸に押し当てられたエリーゼの心臓の鼓動が、徐々に落ち着きを取り戻していくのが分かった。
俺の身体から伝わる熱が、彼女の恐怖を溶かしていく。
「……うん。私、レオンを信じてる」
彼女は俺の胸に額を預けたまま、小さく息を吐き出した。
まだ、恋人としての確かな約束を交わしたわけではない。けれど、この危機の中で、彼女が誰よりも俺を頼り、俺が誰よりも彼女を守りたいと欲していることは、紛れもない事実だった。


