銀狼騎士は転生悪役令嬢と番になる運命でした

【エリーゼ視点】
商業ギルドから初めての調剤依頼(安眠効果のあるハーブを用いた、特製チンキの精製)を無事に納品し、私はついに、自分の力で稼いだ「初めての給金」を手に入れた。
手のひらに乗った、数枚の銀貨。
前世のヴァルハイト公爵家で与えられていた湯水のような金貨に比べたら、それは本当に小さな、ささやかな額だった。
けれど、私の胸は、これまでにないほどの達成感と誇らしさで震えていた。
「見て、レオン! 私、本当にお金をもらえたわ。誰の手も借りず、私のこの手で、誰かの役に立って……!」
「ああ、素晴らしいな、エリーゼ。お前の努力の成果だ」
市場の片隅で、レオンは私の頭を優しく撫でてくれた。彼の大きな手のひらはいつも温かく、包み込まれるだけで、前世のあの冷たい病室の記憶が遠ざかっていく。
「このお金でね、ずっとやってみたかったことがあるの。……レオン、私に付き合ってくれる?」
「お前の行く場所なら、どこへでも」
私がレオンの手を引いて向かったのは、平民街の路地裏にある、小さな大衆食堂だった。
王宮の晩餐会に出てくるような、銀食器に美しく盛り付けられた料理ではない。素焼きの皿にどっさりと盛られた、湯気立つ肉煮込み(シチュー)と、香ばしく焼かれた丸型の黒パン。
「いらっしゃい! 焼き立てだよ!」という店主の元気な声と、漂う肉とスパイスの濃い匂いに、私の五感は早くも大興奮だった。
「こういう、地元の人たちが集まる賑やかなお店で、お腹いっぱい食べてみたかったの!」
スプーンですくい、ハフハフと息を吹きかけながら、お肉を口に運ぶ。
「……っ、美味しい……!!」
じっくり煮込まれたお肉は口の中でホロホロと解け、濃厚なスープの旨味がじんわりと広がる。前世、抗がん剤の副作用で水すら吐き戻し、無機質な点滴のチューブに命を繋がれていた私が、今、自分の足で歩き、自分の稼いだお金で、こんなにも力強い「命」を噛み締めている。
美味しくて、嬉しくて、少しだけ目頭が熱くなった。