銀狼騎士は転生悪役令嬢と番になる運命でした

【エリーゼ視点】
翌朝。
リベルタの街は、朝露が乾くよりも早く、商売人たちの威勢のいい声で満たされていた。
私は、公爵令嬢時代の華美なドレスではなく、昨日市場で調達した、動きやすい仕立てのシンプルなチュニックと頑丈なブーツに身を包んでいた。髪もすっきりと一つに結んである。
「よし、準備万端!」
隣の部屋の扉を叩くと、すぐにレオンが姿を現した。彼は長身を包む黒い軽鎧を纏い、背中には一振りの大剣を背負っている。その姿は、どこからどう見ても一流の「護衛騎士」そのものだ。
「……エリーゼ、その格好、よく似合っている」
レオンは私の姿を上から下まで見つめると、少し耳の先を赤くしながら、低く呟いた。
「本当? 貴族のドレスしか着たことがなかったから、ちょっと落ち着かないけれど……でも、すごく軽くて動きやすいの! これならどこまででも走れそう!」
私がその場でぴょんぴょんと跳ねて見せると、レオンは慌てて私の肩を大きな手で押さえた。
「おい、あまり跳ねるな。……お前のその、平民の服から覗く首元や手首が、その、妙に目立つ。あまり他の男に見せびらかすな」
「えっ……?」
レオンはバツが悪そうに視線を逸らし、口元を手で覆っている。
見れば、彼の銀色の耳がパタパタと小刻みに動いていた。
(私の首元が目立つ……? ただの普通の服なのに)
前世でも恋愛経験ゼロ、悪役令嬢としても男心なんて学んでこなかった私には、彼のその反応の理由がすぐには分からなかった。けれど、彼が私を「一人の女性」として意識してくれているような気がして、急に胸の奥が甘酸っぱく疼きだす。
「さ、さあ、商業ギルドへ行きましょう!」
私は真っ赤になった顔を隠すように、レオンの先を歩き出した。