【エリーゼ視点】
湖で獲った魚を焼き、夜の帳が下りる頃。
私たちは満天の星空の下、パチパチと爆ぜる焚き火を囲んでいた。
香ばしく焼けた魚を口に運ぶと、前世の病院食とは比べものにならないほどの力強い「命の味」がして、私は深く息を吐き出した。
「美味いか?」
「ええ、とっても。……ねえレオン、私の『前世』の話、もっと聞いてくれる?」
炎の明かりに照らされたレオンは、静かに銀色の耳をこちらへ傾け、促すように頷いた。私は膝を抱え、パチパチと燃える炎を見つめながら、心の奥底に沈めていた記憶の蓋をそっと開けた。
「私の前世の身体はね、本当にボロボロだったの。20年しか生きられなくて、その大半を白い部屋で過ごした。……ねえ、想像できる? 朝、目が覚めて最初に見るのが真っ白な天井で、夜、眠りにつく前に見るのも同じ天井なの。それが何年も、何年も続くのよ」
声を震わせないように、私は自分の腕をぎゅっと抱きしめた。
「一番辛かったのはね、『明日の予定』を立てられないことだった。普通の人は、明日は友達と遊ぼうとか、美味しいものを食べに行こうって考えるでしょ? でも私は、明日の朝、自分の心臓がちゃんと動いているかどうかすら分からなかった。夜、眠るのが怖くてたまらなかったわ。このまま目が覚めなかったらどうしようって、真っ暗な病室で一人、心電図の機械の音だけを聴きながら泣いてたの」
あの時の、冷たい恐怖と孤独。
誰にぶつけることもできない理不尽な運命への怒りが、今でも胸の奥をチリチリと焼く。
「抗がん剤の治療の後は、水の一滴すら吐き気がして受け付けなくて、髪の毛も全部抜けて……。鏡を見るたびに、自分が人間じゃなくて、ただの『壊れかけた肉の塊』みたいに思えて、ボロボロ涙が出た。外を歩く健康な人たちが、まるで別の世界の生き物みたいに見えて、羨ましくて、妬ましくて、そんな風にしか思えない自分の醜い心も、本当に大嫌いだった」
そこまで一気に語り、私はレオンを真っ直ぐに見つめた。
「だからね、私がこれからしたいことはね、至極単純。『この五感のすべてで、世界を遊び尽くすこと』よ。泥にまみれて走り回ることも、市場の怪しい屋台の料理を食べ比べることも、誰も見たことのない絶景の山に登ることも……あの白い部屋で、悔しくて涙を流した日の私の夢を、全部叶えてあげたいの」
語り終えると、胸のつかえが取れたような気がした。けれど、炎に照らされたレオンの端正な横顔を見つめていると、急に恥ずかしさが込み上げてきて、胸の奥がキュッと甘酸っぱく締め付けられた。
「あ、ごめんね。こんな暗い話。……でも、そのすべての景色の隣に、レオン、あなたにいてほしいの。それが私の、一番したいこと」
純粋な「旅の相棒」としての願いのつもりだったけれど、彼の琥珀色の瞳を見つめる自分の体温が、少しだけ上がっていくのを感じていた。
湖で獲った魚を焼き、夜の帳が下りる頃。
私たちは満天の星空の下、パチパチと爆ぜる焚き火を囲んでいた。
香ばしく焼けた魚を口に運ぶと、前世の病院食とは比べものにならないほどの力強い「命の味」がして、私は深く息を吐き出した。
「美味いか?」
「ええ、とっても。……ねえレオン、私の『前世』の話、もっと聞いてくれる?」
炎の明かりに照らされたレオンは、静かに銀色の耳をこちらへ傾け、促すように頷いた。私は膝を抱え、パチパチと燃える炎を見つめながら、心の奥底に沈めていた記憶の蓋をそっと開けた。
「私の前世の身体はね、本当にボロボロだったの。20年しか生きられなくて、その大半を白い部屋で過ごした。……ねえ、想像できる? 朝、目が覚めて最初に見るのが真っ白な天井で、夜、眠りにつく前に見るのも同じ天井なの。それが何年も、何年も続くのよ」
声を震わせないように、私は自分の腕をぎゅっと抱きしめた。
「一番辛かったのはね、『明日の予定』を立てられないことだった。普通の人は、明日は友達と遊ぼうとか、美味しいものを食べに行こうって考えるでしょ? でも私は、明日の朝、自分の心臓がちゃんと動いているかどうかすら分からなかった。夜、眠るのが怖くてたまらなかったわ。このまま目が覚めなかったらどうしようって、真っ暗な病室で一人、心電図の機械の音だけを聴きながら泣いてたの」
あの時の、冷たい恐怖と孤独。
誰にぶつけることもできない理不尽な運命への怒りが、今でも胸の奥をチリチリと焼く。
「抗がん剤の治療の後は、水の一滴すら吐き気がして受け付けなくて、髪の毛も全部抜けて……。鏡を見るたびに、自分が人間じゃなくて、ただの『壊れかけた肉の塊』みたいに思えて、ボロボロ涙が出た。外を歩く健康な人たちが、まるで別の世界の生き物みたいに見えて、羨ましくて、妬ましくて、そんな風にしか思えない自分の醜い心も、本当に大嫌いだった」
そこまで一気に語り、私はレオンを真っ直ぐに見つめた。
「だからね、私がこれからしたいことはね、至極単純。『この五感のすべてで、世界を遊び尽くすこと』よ。泥にまみれて走り回ることも、市場の怪しい屋台の料理を食べ比べることも、誰も見たことのない絶景の山に登ることも……あの白い部屋で、悔しくて涙を流した日の私の夢を、全部叶えてあげたいの」
語り終えると、胸のつかえが取れたような気がした。けれど、炎に照らされたレオンの端正な横顔を見つめていると、急に恥ずかしさが込み上げてきて、胸の奥がキュッと甘酸っぱく締め付けられた。
「あ、ごめんね。こんな暗い話。……でも、そのすべての景色の隣に、レオン、あなたにいてほしいの。それが私の、一番したいこと」
純粋な「旅の相棒」としての願いのつもりだったけれど、彼の琥珀色の瞳を見つめる自分の体温が、少しだけ上がっていくのを感じていた。


