【レオン視点】
草原でお転婆に笑うエリーゼを見て、俺の胸はまたしても捕らえられた。
泥に汚れても、彼女は王宮のどんな着飾った貴婦人よりも美しかった。
「レオン、次は何をする? 私、やってみたいことがたくさんあるの!」
輝く瞳で俺を見上げてくるエリーゼに、俺は降参の苦笑を浮かべる。
「そうだな。ちょうど綺麗な湖がある。夜のキャンプに向けて、魚でも捕るか?」
「魚獲り!? やってみたい!」
即答だった。普通の令嬢なら、生魚に触ることすら気絶ものだろうに。
俺たちは湖の浅瀬に移動した。エリーゼはドレスの裾を膝の上までたくし上げ、白い生足を水に浸してキャーキャーと声を上げている。
「冷たーい! 気持ちいい!」
「エリーゼ、見ていろ。獣人の『狩り』を見せてやる」
俺は水面に意識を集中させた。
かつて戦場や過酷な任務で培った五感。そして、この五本の鋭い爪。
水中を泳ぐ銀色の影が見えた瞬間、俺の右手が電光石火の速さで水を穿った。
バシャアッ!
「ほら、捕れたぞ」
大きな川魚の口を掴んで掲げると、エリーゼは「わああっ!」と両手を叩いて飛び跳ねた。
「すごーい! レオン、格好いい! まるで本物の狼ね!」
「……一応、狼の獣人だからな」
褒められ慣れていない俺の耳が、思わずパタパタと動いてしまう。それを見たエリーゼが、さらに目を輝かせて俺に近づいてきた。
「ねえ、レオン。その耳……触ってもいい?」
「なっ……!?」
俺は思わず一歩下がった。獣人にとって、耳や尾は動態感知の要であり、同時に非常に敏感な部位だ。信頼した番(つがい)にしか触らせない、聖域のような場所。
「だ、駄目だ。耳は、その……敏感なんだ」
「おねがい。ずっと、触ってみたかったの。もふもふしてて、とっても綺麗なんだもの」
エリーゼは潤んだ琥珀色の瞳で、上目遣いに俺を見つめてくる。ベッドの上での闘病生活、そんな過酷な過去を乗り越えて「今」を楽しもうとしている彼女に、そんな目で見つめられたら――断れるわけがない。
「……少しだけだぞ」
俺は湖から上がり、草の上に腰を下ろして、彼女が触りやすいように頭を下げた。
「わあ……失礼します……」
エリーゼの小さな、温かい指先が、俺の銀色の耳の付け根にそっと触れる。
その瞬間、背筋にゾクリとした甘い電流が走った。
「んっ……」
「あ、ごめん、痛かった?」
「違う、痛くない。ただ……その……」
彼女の指先は優しく、丁寧に、俺の毛並みを整えるように撫でていく。
心地よさと、それ以上の猛烈な独占欲が脳内を駆け巡る。このまま彼女の手を掴んで、押し倒して、俺の番だと印をつけてしまいたい――そんな野生の衝動を抑えるのに、俺は必死だった。
「レオンの耳、あったかい。生きてるって感じがする」
エリーゼは嬉しそうに呟き、今度は俺の頬に両手を添えた。
彼女の顔が、すぐ目の前にある。
自由を手に入れた悪役令嬢と、彼女に命を救われた半獣の騎士。
湖畔を渡る風の中、俺たちの距離は、言葉よりも早く縮まろうとしていた。
草原でお転婆に笑うエリーゼを見て、俺の胸はまたしても捕らえられた。
泥に汚れても、彼女は王宮のどんな着飾った貴婦人よりも美しかった。
「レオン、次は何をする? 私、やってみたいことがたくさんあるの!」
輝く瞳で俺を見上げてくるエリーゼに、俺は降参の苦笑を浮かべる。
「そうだな。ちょうど綺麗な湖がある。夜のキャンプに向けて、魚でも捕るか?」
「魚獲り!? やってみたい!」
即答だった。普通の令嬢なら、生魚に触ることすら気絶ものだろうに。
俺たちは湖の浅瀬に移動した。エリーゼはドレスの裾を膝の上までたくし上げ、白い生足を水に浸してキャーキャーと声を上げている。
「冷たーい! 気持ちいい!」
「エリーゼ、見ていろ。獣人の『狩り』を見せてやる」
俺は水面に意識を集中させた。
かつて戦場や過酷な任務で培った五感。そして、この五本の鋭い爪。
水中を泳ぐ銀色の影が見えた瞬間、俺の右手が電光石火の速さで水を穿った。
バシャアッ!
「ほら、捕れたぞ」
大きな川魚の口を掴んで掲げると、エリーゼは「わああっ!」と両手を叩いて飛び跳ねた。
「すごーい! レオン、格好いい! まるで本物の狼ね!」
「……一応、狼の獣人だからな」
褒められ慣れていない俺の耳が、思わずパタパタと動いてしまう。それを見たエリーゼが、さらに目を輝かせて俺に近づいてきた。
「ねえ、レオン。その耳……触ってもいい?」
「なっ……!?」
俺は思わず一歩下がった。獣人にとって、耳や尾は動態感知の要であり、同時に非常に敏感な部位だ。信頼した番(つがい)にしか触らせない、聖域のような場所。
「だ、駄目だ。耳は、その……敏感なんだ」
「おねがい。ずっと、触ってみたかったの。もふもふしてて、とっても綺麗なんだもの」
エリーゼは潤んだ琥珀色の瞳で、上目遣いに俺を見つめてくる。ベッドの上での闘病生活、そんな過酷な過去を乗り越えて「今」を楽しもうとしている彼女に、そんな目で見つめられたら――断れるわけがない。
「……少しだけだぞ」
俺は湖から上がり、草の上に腰を下ろして、彼女が触りやすいように頭を下げた。
「わあ……失礼します……」
エリーゼの小さな、温かい指先が、俺の銀色の耳の付け根にそっと触れる。
その瞬間、背筋にゾクリとした甘い電流が走った。
「んっ……」
「あ、ごめん、痛かった?」
「違う、痛くない。ただ……その……」
彼女の指先は優しく、丁寧に、俺の毛並みを整えるように撫でていく。
心地よさと、それ以上の猛烈な独占欲が脳内を駆け巡る。このまま彼女の手を掴んで、押し倒して、俺の番だと印をつけてしまいたい――そんな野生の衝動を抑えるのに、俺は必死だった。
「レオンの耳、あったかい。生きてるって感じがする」
エリーゼは嬉しそうに呟き、今度は俺の頬に両手を添えた。
彼女の顔が、すぐ目の前にある。
自由を手に入れた悪役令嬢と、彼女に命を救われた半獣の騎士。
湖畔を渡る風の中、俺たちの距離は、言葉よりも早く縮まろうとしていた。


