後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~

「普段は面倒なことはやりたがらないくせに、興味があればこんな所まで来るのも平気とか、本当になんなんだよ、お前は」

 マリオンの口から思わず零れた愚痴は、笑顔のフィリアスがきっちり拾い上げた。

「いやぁ〜、だって気になるだろ?人気の無い森の中を彷徨う正体不明の魔女。しかも効能確かな秘薬付き、とか」

 ニコニコ楽しげなフィリアスの横に並んで足を踏み入れた森は、思っていたよりは歩きやすく居心地も良かった。

 中に分け入るほどに人のざわめきも遠くなり、緑の匂いがより濃密に感じられた。
 ともすれば、ここが王宮の敷地内だと忘れてしまいそうになる。

 徹夜明けのいささか重たい体を引きずって、それでも1時間ほどは歩き回っただろうか。

 くだんの魔女どころか、不意に足元に飛び出してきたウサギくらいしか生き物を見ることはなかった。
 当然、他に人影もそれらしき痕跡も見つけることは出来ない。

「やっぱり、そうそう簡単に会えないよね〜」
 少しがっかりしたような雰囲気を出しながらも、潔く切り上げの号令をかけたのはフィリアスだった。
 まぁ、大方何も無い森の中をただ歩き回ることに飽きたのだろう。




 痕跡すら見つけられなかった以上は、噂の域を出ない不審者情報で忙しい上官の時間を取ることも憚られて、結局マリオンは報告することができずにいた。

 しかし、真面目ゆえに放って置く事も出来ず、仕事の合間をみては森を歩き回るのが日課となった。
 
 最初にこの話を持ってきたフィリアスなど、最初の一回でなんとなく満足してしまったようで、その後は一回も付き合おうとしないという、なんとも理不尽な仕打ちにあったりもした。

 もっとも、マリオンとて、2度3度と散策を重ねるうちに、森の中でお気に入りの休憩場所を見つけるなど、結構楽しんでいたりもしたのだが。

 それが起こったのは当初の目的も薄れ、スッカリ森の散策がマリオンの息抜きの時間と化していた頃、だった。