後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~

 レイラは、1人森の中を歩いていた。

 日よけの黒いローブはユリアには非常に不評だが、下草や枝が払われていない森の中では、髪を枝に絡める危険からも守ってくれるし、たきしめた虫除けの香のおかげで不快な虫も寄ってこない。
 
 すこぶる快適な為、今の所苦虫を噛み潰したようなユリアの顔は見ないふりをしている。
 どうせ行き合う人の姿などほぼ皆無なのだから気にしなくても良いと思うのだが、そういう問題では無いそうだ。

 手に持った籠の中には目当ての薬草がだいぶ集まっていた。
 この森を歩き回るようになり、すでに4年の月日が経っている。
 今では一見鬱蒼としたこの森も、レイラの庭みたいなものだった。

 手付かずの為多少歩きにくいが、手付かずであるがゆえ森の恵みも豊かである。
 仮にも王宮の敷地内の為、採取に来る物好きなんてレイラくらいだし、獣には人の定めた境界なんて意味がない。

 人を拒む高い崖も、翼のある鳥や四つ足の獣には、そう障害になるものではなかったようだ。
 流石に肉食の大型獣などは駆逐されている為、結果、小動物たちの楽園となっていた。
 あと、山菜と薬草の宝庫だ。

 後宮の忘れられた側室は本当に忘れられてしまったらしく、住みだして直ぐに食料の供給が滞り出した。

 森に慣れたレイラがお腹をすかせて、探索の手を森に伸ばしたとしても誰も責められないだろう。

 いや、普通は上に泣きつくのだろうが、パン1つもらうにも後宮管理の侍女長に「側室とは名前だけの役立たずのくせに」と、悪し様に罵られるユリアの姿を見てしまえばその気持ちも失せた。

 実家に頼ったところで同様だろう。

 貰えないなら自分で調達。
 幸い、その為のスキルは持っていた。
 植物どころかウサギなどの小動物まで狩ってきて、ユリアに悲鳴をあげさせたのも今では良い思い出だ。