後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~

 実情を語れば、相手は確かに部屋持ちの高位侍女ではあるが、早くに夫を亡くした寡婦であり、結構年上のお姉様である。
 お互い割り切った暇つぶしの遊びであり、ばれた所でさしたる問題もない。

(流石に高位貴族の未婚の若いのに手を出さないって)
 内心舌を出しながらも話さないのは、マリオンの反応が面白いからだけに他ならない。

(まぁ、実情話したら話したで、爛れてるだの何だの騒ぎそうだけどな)
 心の声が聞こえたならば、説教3時間コースになりそうな事を考えながらも、「危ない橋を渡るな」と見当違いの説教をはじめたマリオンに神妙な顔で頷いておく。

「で、魔女なんだけどさぁ」
 説教もいち段落。
 腹も減ったしと騎士団の食堂で朝食を食べているとフィリアスが話を蒸し返してきた。
 ちなみにこれを食べ終わったら、2人とも帰って今日は休日の予定だ。

「まだその話に戻るのか?そもそも、後宮なんて王以外は入れないんだから会えるわけないだろ?何かのガセネタなんじゃないのか?」

 夜勤明けとは思えない食欲を見せながらも、マリオンは面倒臭そうな顔を隠そうともせず、それでも律儀に言葉を返した。

「いゃぁ〜、それがさ、境の森に現れるらしいんだよね。勿論、大っぴらに入っちゃいけないけどギリギリグレーゾーンじゃん?」
 境の森とは王宮内にあるこぢんまりとした森の事で、後宮と王宮の北側の境目となっている。

 場所的にも手付かずな為、酔狂なカップルが人目を避けて逢い引きの場に使うくらいで基本人気がない。森がそのまま険しい山の崖下へと繋がっている為、警戒の目も薄いのだ。

「出現時間もまちまちでローブを深く被っているから容姿もはっきりしない。けど、魔女に譲られた薬や化粧品はとても質が良くて効果が高いんだって」
「………不審人物が王宮内の森に現れてるって事じゃないか」

 ニコニコと受けた報告はとても笑って流せるものではなかった。
 顔を見せない誰ともわからない相手の渡した薬を警戒もせず使える神経も理解できず、マリオンは表情を険しくした。

 ある意味予想通りの反応を返した友人に、フィリアスは我が意を得たり、とばかりに頷いてみせる。
「そうなんだよ。だけど、上官に報告するにしても未確認情報すぎて心許ない。と、いうわけで本日暇なマリオン君。一緒に現場検証と行かないか?」

 ニンマリと笑うフィリアスにマリオンは深々とため息をついた。
 どうにもおかしいと思ったら、どうやら興味を惹かれる噂をゲットしたからとマリオンを巻き込みに来ただけだったらしい。

「お気楽なお前と違って俺は昨夜は一睡もせずに働いていたんだが?」
 思わず愚痴をこぼしたが真面目なマリオンが不審人物情報を聞いて放っておけるはずもなかった。
 ココで無理に帰ったとしても、どうせ気になって悶々となり、眠気など湧いてこないのは分かりきっていた。

 答えなど聞かなくても、結果は明白。
「まぁまぁ。寝る前に森林浴したらきっと癒されて良い眠りも取れるって」
 ニコニコと促すフィリアスの頭を衝動的に殴ったマリオンは、たぶん、悪くないだろう。





 そうして、マリオンは運命に出会ってしまうのだ。