後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~

『王宮の森には魔女が住んでいるらしい』
 社交界の中で最近まことしやかに囁かれる噂の1つだ。

 魔女に頼めば肌を美しくする薬や恋の媚薬までなんでも手に入れることが出来るらしい。
 だが、非常に気まぐれな為、なかなか見つけることができないそうだ。

「いかにも、婦女子が好きそうな話題だな」
 マリオンは楽しそうに語る友人に呆れた表情を隠そうともせずに肩をすくめて見せた。

 ひとつ年上の幼馴染は、相変わらずふらふらと少女たちの間を漂っているらしい。

 日課の素振りを終え、心地よい疲労感とともに朝の空気を楽しんでいるところに現れてなにを話すかと思えば今、女性の間で流行っている噂話とは。

「珍しく早起きしたと思えば、暇な奴だな」
「残念、早起きじゃなくて今から眠るんだよ」
 呆れ顔のマリオンは、返ってきた言葉に更にゲンナリした気分を味わう羽目になった。

 なんで、朝の爽やかな空気の中、友人の爛れた生活の一端を垣間見なくてはならないのか。

「………もう、良いから家帰れよ、お前。………じゃ、ない!ここにいて朝帰りって、侍女に手を出したのか?しかも、泊まりができるってことは部屋持ちの?!」

 ココは王宮の一端にある鍛錬場だ。
 新人隊士として勤めているマリオンが鍛錬の為にここを使うのは毎朝のことで、同じく隊士として名を連ねている幼馴染でもある友人のフィリアスがココにいるのも、立場的には不自然なことではない。

 が、「今から寝る」=「朝帰り」。
 つまり、この男は王宮内のどこかで夜を明かしてホニャララな事を致してきたと言っているのだ。

 ちなみに夜勤では無かったのは明白だ。
 なぜならその役割は昨夜、マリオンも担っていたのだから。

 王宮内に個室を持っている侍女となるとそれなりの爵位持ちの娘が行儀見習いも兼ねての王族付き、となる。
 つまり、未婚の貴族の娘で、ソレと火遊びは流石にばれた時ヤバすぎる。
 昔程、厳密ではないとはいえ、やはり未婚の娘は貞淑を求められるのが世の常だ。

 今までも数多の浮名を流してきたフィリアスだが、流石に今回は相手によってはまずいことになるんではないかとマリオンは青くなった。

 浮名を流すたびにうるさく小言を言いはしてもそれは心配しているからであって、1度懐に入れた相手には驚くほど寛容なのがマリオンである。

 まぁ、フィリアスにしてみれば真面目すぎるのが玉に瑕なのだが、良い奴なのは間違いないし、自分と正反対の相手というのは、話していて色んな刺激を受けてとても楽しい。

 そんな情に厚い友人の姿にフィリアスは深く言及することはなく、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべるにとどめた。