後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~

 建物の端っこにあるこの部屋は、小さな森に面していて生まれ育った家を思い出させた。
 しかも1階にある為、申し訳のようについたテラスから階段で外に出ることが出来る。

 辺り一面に雑草が生い茂っているが、よく見ればいくつかハーブも交ざっていた。
 鳥が運んできたのか、気まぐれな誰かが、かつて此処で園芸でも楽しんでいたのかもしれない。

「どうせ咎める人も居ないでしょうし、自由にさせてもらいましょ」
 一応、後宮に入ったという建前上、外に出ることは出来ないだろうが、幸い窓の外に見える鬱蒼(うっそう)と茂った小さな森は敷地内らしい。
 
 ニッコリと笑顔で窓の外を眺めながら、レイラの小さな頭の中はいろんな計画が渦巻いていた。

 ニコニコと楽しげな小さな主人にユリアは大きくため息をつくと肩を落とした。

 突然、侯爵家に連れてこられた痩せっぽちの少女は、自分を顧みない父親にも腐らず、山のように付けられた教師陣にも負けず、驚くべき早さで知識を吸収し礼儀作法をものにして見せた。

 侯爵家に勤めだして1年のユリアは、最初はとんだ貧乏くじを押し付けられたと嘆いていたのだが、逆境にもめげずいつも笑顔で前向きな少女にすぐに絆されていた。

 だからこそ、少し迷いはしたものの、自ら志願してここまで付いてきたのだ。
 なにより、プライドばかり高い正妻の娘や、すぐにメイドに手を出そうとする息子に仕えるよりはよっぽどマシだとも思えた。

(なのに、こんな目にあう姿を見なくてはならないなんて)
 悔しさがフツフツと湧いてくる。
 確かに、40近い王の目にとまるにはレイラは幼すぎるけど、年端もいかない少女をこんな人気の少ない寂しい場所に追いやるなんてどうかしている。

 実際の所、ユリアもレイラより3つ年上なだけの小娘でしかないのだが、本人はすっかりレイラの保護者の気分だった。

「かくなる上は、少しでもこの場所を居心地よく整えるように努力いたします。早速、草取りですわ!」

 勇んで腕まくりとともに外に飛び出していったユリアをレイラはポカンと見送った。
 なにがどうして、そんな結論に至ったのかよく分からなかったのだ。
 確か、ついさっきまで容姿に関する話をしていた気がするのだが、なぜに草取り?

「………ん?草取り?」
 ふと、嫌な予感がしてレイラは慌てて窓辺に駆け寄り、そして、悲鳴を上げた。
 バルコニー周辺の雑草が端から抜かれようとしていたのだ。

「待って、待って、ユリア!それ、抜いちゃダメ!それは雑草じゃなくてハーブなのよ!」
 窓から叫び制止をかけると、レイラは急いで草取りに参戦すべく駆け出した。