後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~

「幸せになると良い」
「どうした?」
 呟きに込められた想いはなんだったのか?
 いつもと違う雰囲気を感じ取ったベックが、不思議そうにパレードから視線を戻した。
「ん?なにが?」
 しかし、そこにはいつもの顔で笑うディアンがいるだけだった。

「おーい!ご両人!幸せにな~~!!」
 ふいに、ディアンが大声を張り上げた。
 この喧騒の中にもかかわらず、その声を聞きとったらしいレイラが顔をあげてキョロキョロと辺りを見渡している。
 最初から滞在場所を把握していたらしいマリオンが、その肩を叩いてディアンたちの場所を視線で教えていた。

 目が合った瞬間、レイラは満面の笑顔を浮かべると揺れる馬車の上にもかかわらず、見事なカーテシーを披露してみせた。
 突然のサプライズに、群衆からはひときわ大きな歓声が上がる。

 マリオンの命の恩人であり、一族に名を連ねる者として、本当はディアンも結婚式に呼ばれていたのだ。
 しかし、堅苦しいのは苦手だと断りを入れていたし、婚姻前は忙しくて言葉を交わすどころか顔を合わせる事もできていなかった。

 フィリアス経由で王都に滞在していることは伝えていたし、当日はパレードを見ているはずと予想はしていたのだろう。
 隣に立つマリオンも、レイラのカーテシーに合わせるように胸に手をあて礼をしていた。

 二人からの礼を受け取って、ディアンは、思わず身を乗り出すようにして大きく手を振りかえす。
「だからアブナイっていうのに」
 服の裾を掴みながらため息をつくベックだったが、その口角は上がっていた。

「うん。幸せな結末は最高だね!」
 遠ざかっていく馬車を見送りながら、ディアンはグラスを満たすと晴れ渡る空に向かってもう一度乾杯を捧げるのだった。