後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~

「おや、どうやらパレードが近づいてきているみたいだね。レイラちゃんがどんな顔しているのか、楽しみだ」
「よっぱらいなんだから、あまりムチャするな。おちるぞ」
 二階から身を乗り出すようにして通りの奥を見ようとするディアンの服の裾をベックがそっと握った。

「大丈夫だよ。そんなに飲んでないし」
 笑いながら答えて、徐々に近くなる歓声に目を細める。
 綺麗に飾り付けられた屋根のない馬車の上で、美しい白い衣装を着た二人が沿道に並ぶ群衆へと手を振っていた。
 緊張しているのか、いつもハツラツとしているレイラの動きが少しぎこちなく見える。

「予想以上の人に、驚いたのかな?」
 ディアンがわずかに眉をひそめた時、不意に隣にいるマリオンが身をかがめてレイラに何か囁いたように見えた。とたんにレイラの頬がバラ色に染まり笑顔が浮かぶ。

「フォローも万全だねぇ」
 マリオンがレイラの腰を抱き寄せる。見つめあって微笑んだ二人に、さらに歓声が大きくなった。
 その様子に、ディアンが笑いながらグラスの中のワインを飲み干す。

「がんばって治療して良かったね」
 まさか茂みの中で見つけた怪我人が、王子様とは思いもよらなかったけれど、あれほど幸せそうな様子を見れたのだから薬師冥利に尽きるというものだろう。
 結果的に、思いがけない褒賞も手に入れたし、今も至れり尽くせりで歓待されているのだから。

「まあ、まさか小鳥の娘とは思わなかったけどね」
 長の養い児であった小鳥の話は、一族の中では有名で、実はディアンも旅の途中で会った事がある。
 澄んだ声で歌い、軽やかに踊る姿に小鳥の愛称がつけられたのを納得したものだ。