後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~

とある国のとある侯爵が、たまたま視察に出た自領の美しい町娘を見初めて愛妾に召し上げた。
 プライドの塊のような正妻に疲れ果てていた侯爵は純朴な町娘に癒され溺愛したそうで。

 そうなると、当然面白くないのは正妻様。
 町娘は蛇蝎(かだつ)(ごと)く嫌われて、侯爵の見えないところで酷い扱いを受けたそう。
 まぁ、よくある話だよね。

 それでも、侯爵は真実町娘を愛していたし、正妻の手からも陰になり日向になり守り抜いたんだって。
 けど、元々あまり体の強くなかった町娘は、子供を身篭ったことで体調を崩し、どうにか娘を1人産み落としたものの、引き換えに自身の命を失う事となったんだ。

 愛する人を失った侯爵は嘆き悲しみ、自分から愛妾を奪う結果となってしまった娘を受け入れることがどうしてもできなかった。
 もちろん、蛇蝎の如く愛妾を嫌っていた正妻が、そんな相手の産み落とした赤子に興味を示すはずもないよね。

 結果、生まれたばかりの小さな命は誰からも顧みられることはなく、だけど、ほんの少しのお情けのおかげで付けられた使用人の手で、スクスクと育つこととなる。

 もっとも姿も見たくないという侯爵の言葉で領地の隅にある忘れられていた別荘へと追いやられちゃったんだけど。
 その別荘の管理人として雇われていた猟師一家のもと、娘は何不自由なくその後も暮らしていた。

 森を駆け回り、狩りを教わり、薬草を学ぶ。
「家族」以外の人と会うことは滅多にないけれど、それを不満に思うこともなく、日々の糧を森で得て、森に感謝を捧げる日々に娘は満足していたんだ。

 娘自身どころか育てていた猟師一家ですら娘の本来の身分を忘れかけていた、そんな頃。

 けれど、転機は訪れた。

 娘の暮らす国の同盟国が、隣の大国に戦を仕掛け見事に大敗して、結果、娘の国もとばっちりで属国化。
 同時に吸収される国は他に2つ程あったそうで、大国はそれぞれの国に王の側室を複数人出すことを命じてきたそう。

 少女の父親の身分は侯爵であり、紆余曲折のもと、忘れられていた娘に白羽の矢が立った。正しく、数合わせ。
 もしかしたら、こんな時のために、娘は命を奪われることなく育てられてきたのかもしれない。

 かくして、森の別荘から突然連れ戻された娘は付け焼き刃の礼儀作法を叩き込まれ、最低限の花嫁道具を携えて、大国の後宮へと送り込まれることとなったんだ。