悪女の代行を演じたら氷の御曹司に永久就職⁉〜お見合い破談に大失敗!私は彼に丸め込まれ溺愛されてます~

「顔色悪いですけど大丈夫ですか?」

新人に心配される先輩ってどうですか?
おかしい、いや全部がおかしい!
就任式は許せる…でもこれおかしくない?

「フロント係が最前列って凄い優越感ありますね」

優越感?
私は恐怖感しかない。
逃げ出すことも許されずホテルの大ホールで行われる“新社長就任挨拶”の場に立たされ最前列の端に直立不動で控えながら
心臓が骨と皮膚を突き破るのではないかというほどの恐怖に震えていた。

「あ、来ましたよ」

隣で嬉しそうにはしゃぐ宮永さんは私の腕を突くと壇上に黒スーツの役員たちを従えた彼が姿を現しマイクの前に立つと会場に集まった数百人の従業員たちを冷たい瞳で見下ろした。

「本日付けで代表取締役に就任いたしました、逢坂 志遠です。今後は我がクレスト・インターナショナルグループの指導に基づいて経営して行くことになります。うちの経営理念において無駄と甘えは一切許容しない」

低く温度のない声が会場の空気を一瞬で凍りつかせ彼の視線がゆっくりと会場内を巡っていく。

隣の宮永さんの身体がビクッと震えたのが分かる。
それほど冷たい感じで誰も反論させない圧が彼にはある。
やっぱり冷徹は噂だけじゃない。

「怖い感じですね」隣で嬉しそうにしていた彼女もさすがに顔を強張らせてる。

分かるよ、私は冷たい彼を知ってる。
でも、私が一番恐れてるのはバレやしないかってこと!

大丈夫、落ち着け私!
あのお見合いの夜は派手なドレスに濃いメイク!
髪色も違う!
今の私はきっちり黒髪をまとめた地味な従業員のナチュラルメイクで絶対に同一人物だとは気づかれないはず!

(…ヤバいこっちに視線が来る‼)

彼が巡らせた視線が私達の前に来ると私はバッと下を向き必死に気配を消す。
視線は私の上を通り過ぎそのまま彼は壇上を降りていった。

「よ、良かった…」

「どうしました?凄い汗ですよ」

「大丈夫!なんでもないよ」

乾いた笑いで誤魔化してハンカチで汗を押さえる。
メイクの力って偉大!
胸をなでおろし自らの変装技術の高さに深く感謝したのも束の間そんな安寧の日々は長く続くわけもない。