今から婚約破棄直後の悪役令嬢が通ります。ご注意ください。

 そして、こちらへと向かって来る人影が見えたので、私たちは手近にあった部屋へと素早く入った。

 さっきまで居た暗い廊下ではそこまでとは思わなかったけれど、明るい光源の下で見た騎士は、まるで彫像のような美しい顔立ちを持っていた。

「……貴方、名前は?」

「僕はクラウス・グリムヴァルトと申します」

 ……やはり、聞いたことがないわ。ベロニカは王太子の婚約者で、王族に関係する者はある程度は名前を覚えているはずだけど……。

 『王の騎士』と名乗っていたけれど、陛下の近くにこんな名前の騎士が居たかしら……?

 いえ。私だって王族に近い騎士の名前を、すべて覚えていられるわけではないのだから……それに、未来の王族たらんと必死で頑張ったり、そんな努力などは何の意味も成さなくなるのだわ。

 ……これまでだって、ずっとそうだった。