信じられないことだけど、私は婚約破棄された直後に、前世の記憶を取り戻した。
けれど、転生してきたらしいこの世界のことは、何も知らない。特に好きな小説でもゲームの世界だったわけでもない、何の縁もゆかりもない異世界だった。
ただ、この世界での私の役どころは『悪役令嬢』ベロニカ・シュターデ。大きな権力を持つ裕福なシュターデ公爵家に生まれ、王太子エドガルド殿下の婚約者で……いいえ。元婚約者だった貴族令嬢。
記憶を取り戻したばかりの私は、豪華なシャンデリアきらめくざわざわと騒がしい夜会会場を後にして、ひと気のない庭園へと取り急ぎ移動した。
我が身に起きたことに、あまりに驚き過ぎて、とりあえず一人になって落ち着こうと考えたからだ。
私は貴族として生まれ育ったベロニカ・シュターデとしてのこれまでの記憶も持ち合わせているものの、現代の倫理観その他諸々が邪魔をして、王太子エドガルド殿下より婚約破棄された事実に苛立って仕方ない。



