あれから、東歌くんとは少し嫌な空気で別れた。
だけど次の日にはもうなおってて、僕たちは変わらず毎日を過ごした。
そして、1ヶ月がたった。
「みーなと。お前、東歌となんかあったん?」
休み時間、突然梨仁が話しかけてきた。
その質問に僕は控えめに頷いた。
「まあね。ゴールデンウイークにふたりで遊びに行ったんだ」
「えっ!?マジで!?あー、だから距離近くなってんのか」
僕はその言葉に苦笑いした。
校内で僕たちは「みなこう」なんて呼ばれてるくらいに仲が良くなった。
朝の登校、昼休み、放課後、下校時間。
いつでも一緒にいる僕たちは、今やすっごーく注目されちゃってる。
ま、推しと仲良くなれるのは本望だしいいんだけどね。
もとからかわいいって注目されてるから、別に視線は気にならないけどね。
「最近ずっと一緒にいるもんね。僕たちとの時間がなくなって悲しいな〜」
「えっ、ごめん!ふたりのこと全然考えられてなかった!」
そう慌てて謝ると、ふたりは顔を見合わせてクスッと笑った。
「うそうそ。別にいいよ、僕は湊士がよければぜーんぜん」
だけど、どこか梨仁の表情が暗かったのは見てしまった。
ふたりは親友って言えるくらい仲良いし、もっと関わりたいとも思ってる。
東歌くんだけ追いかけてちゃダメだよね。
「ありがとう氷翠。でも、もっとふたりといる時間作りたいし、また休みの日に遊びに行こうね」
すると、梨仁の表情は明るくなった。
「おう!なら、夏休みはプールにでもいこうぜ!」
「ちょっと梨仁、それは早くない?夏休みまでまだまだ1ヶ月以上あるんだけど」
氷翠の言葉に、みんなで笑った。
そして、放課後になった。
梨仁はバスケ部で、氷翠と僕は美術部。
ふたりで美術室に行って、今日も好きな絵を描く。
顧問の先生が意外とテキトーな先生で、コンクール前は部活に行くとかは自由。
ちなみに、コンクールは夏休みと冬休みの期間にある。
あとは体育祭と文化祭の掲示物を作ったりしてるかな。
ちなみに、僕は普段小説のイラストを描いてるんだ!
イラストレーターさんにこんな感じがいいですって見せると早く絵が仕上がるし、なによりイラストを描くのが楽しいんだ。
あっ、たまに東歌くんのイラストも描いてるんだ。
推しのイラストって描きたくなっちゃうよね〜。
「湊士、今日はなにを描くの?」
隣を歩く氷翠に聞かれて、僕は少し考えた。
次の小説はまだ仕上げてなくてイラストは描く必要ないよね。
だったら残すは——。
「推しのイラスト」
「ふっ、言うと思った」
僕が自信満々に言うと、氷翠が笑った。
それから部室に入ってそれぞれ席に着く。
うーん、今日はどうしよっかな。
水彩画、油絵、アクリル画、ペン画……。
「よし、アクリル画にしよ」
そうと決めた僕はアクリルガッシュを取り出して準備し、すぐに取りかかった。
***
そして早いもので1時間が経過した。
僕は一度一息つく。
あとは背景だけ。
どういう背景にしようかとルンルンで考えていると、突然美術室の扉が開いたのだ。
「ここに月丘湊士っている?」
僕はその声にすぐに視線を走らせた。
「と、東歌くん…!」
僕は思わず声を上げた。
よかった、絵は東歌くんからは見えないや。
さすがに本人に見られるのは恥ずかしいから。
「どうしたの?僕になにか用?」
僕はすぐに東歌くんに駆け寄った。
すると、少しだけ声をひそめて言った。
「図書委員の仕事頼まれた。月丘しか頼れないんだけど、一緒に来てくんない?」
「もちろん行くよ!ちょっと待ってて、片付けてくる!」
僕は目を輝かせた。
せっかくの東歌くんからのお誘いなのだ。
これに乗らないなんてあり得ない!
僕は絵の具やらなにやらを片付けて、リュックを背負った。
するとその時、氷翠が言った。
「東歌くんからのお誘い?」
視線はこっちに向けず、ずっと描き続けている。
器用だなぁと思いながら、僕は答える。
「まあ、そんなところ。図書委員の仕事だって」
「そっか。じゃあ、頑張ってね。また明日」
ようやくチラッと僕を見た。
僕は氷翠に笑いかけてから、東歌くんの方に向かった。
「ごめんね、遅くなって。行こっか」
「ああ」
そして僕たちは図書室に向かった。
***
「よし!終わったー!!」
本の整理が終わった僕たちは向かい合わせになって座った。
ちょっと休憩。
30分もかかっちゃったし、もうそろそろ最終下校の時間だ。
「次はどこ行こっか」
突然声をかけられて、僕は顔を上げた。
“次は”って、多分あの小説の材料集めのことだよね。
まずは王道エピソードで書いていきたいから、王道のデートスポットに行きたい。
となると遊園地とか水族館とかかな。
夏休みになればプールとか?
でも——。
「ちょっと嫌な顔してる」
そう言って東歌くんは僕の頬をなでた。
「あっ、えっとごめん…」
嫌な雰囲気にさせてしまった。
東歌くんも、少し不安そうに僕の表情を見てる。
「なんか嫌なこと思い出した?」
僕はその言葉にゆっくり頷いた。
特に水族館は大嫌いだ。
「言ってみ?」
「えっ?」
僕は勢いよく顔を上げて、東歌くんのことを見つめた。
「もし月丘がなにも言わないでほしいなら聞き流す。だから、教えて」
推しに弱気なところなんて見せたくない。
だけど、そんなふうに優しい声で言われたら——。
「えと…僕水族館は嫌い…で」
***
中学1年生の冬休み、俺には彼女がいた。
名前は御厨水愛、ひとつ上の先輩だった。
水愛先輩に水族館に行かないかと誘われて、デートをしたことがある。
だけどそこで、俺は嫌なものを目の当たりにした。
「ねえ湊士くん、ちょっと休憩にしない?」
「うん。そうしようか」
水愛先輩は優しい王子様が好みで、相変わらず俺は好きなタイプを演じていた。
「私アイス食べたいんだ。買ってくるから、湊士くんはここで待ってて」
「うん、わかった」
僕はなにも知らず、そこで待っていることを決めた。
その後なかなか水愛先輩は戻らなかった。
不思議に思った俺は、なにかあったのかと心配して探し始めた。
ラインしてみても既読にすらならない。
いよいよあせった俺は、全力で水愛先輩を探した。
結果、俺は後悔することになる。
「そろそろ戻らないと」
水愛ちゃんの声が聞こえて、俺は振り返った。
そこには暗い通路があり、少し奥に水愛先輩は男とふたりで立っていた。
その距離が明らかに恋人と同じようだったのは言うまでもなかった。
「水愛…先輩…」
「えっ?あ……湊士…くん…」
水愛先輩は明らかにあせった顔をしていた。
その表情で、俺は全てを悟った。
俺は浮気をされていたんだと。
それがわかった俺は、もうどうしようもないことに気がついてすぐにその場を後にした。
無理に笑ったただ一言。
「水愛先輩、また学校で」
その言葉に水愛先輩は答えなかった。
俺の背中には、水愛先輩の隣に立っていた男の視線が刺さった。
ふたりの視線から外れただろうと思い、すぐに俺は走り出した。
水族館をすぐに後にし、人通りの少ない公園にたどり着いた。
「なんだ…やっぱ恋愛って、ろくなことないですね…」
唇を噛み、俺は涙をこぼした。
人の気持ちは絶対に変わったしまう。
母さんだって父さんを捨てて出ていったんだ。
わかってた、ちゃんとわかってたよ。
それでも苦しい…苦しいよ…。
「もう、誰のことも好きになりたくない…」
俺はただひたすらに泣くことしかできなかった。
***
「——っと、まあこんなところかな。嫌な思い出が詰まった場所ばっかり」
僕は東歌くんの方を向けなかった。
今、どんな表情をしてるんだろう。
少し怖かったんだと思う。
空に浮かぶ夕日を見ている僕に、東歌くんは少しかすれた声で聞いた。
「どうして、そんなことされたんだ?」
僕は目をふせた。
どうして、どうして…か。
その答えを僕はよく知っていた。
「真面目に尽くしすぎなんだって。あれこれやってあげたり、細切れに記念日を祝ったり。まあ、僕は恋愛に向いてないってことだよ」
微笑んで言った。
だけど、東歌くんを見た瞬間僕の表情は崩れた。
まるで全てを射抜くような視線は、僕には耐え難いものだった。
そして次の瞬間、東歌くんはかすかに微笑んで言った。
「なら、俺が嫌な記憶全部上書きしてあげる」
「えっ?」
だけど次の日にはもうなおってて、僕たちは変わらず毎日を過ごした。
そして、1ヶ月がたった。
「みーなと。お前、東歌となんかあったん?」
休み時間、突然梨仁が話しかけてきた。
その質問に僕は控えめに頷いた。
「まあね。ゴールデンウイークにふたりで遊びに行ったんだ」
「えっ!?マジで!?あー、だから距離近くなってんのか」
僕はその言葉に苦笑いした。
校内で僕たちは「みなこう」なんて呼ばれてるくらいに仲が良くなった。
朝の登校、昼休み、放課後、下校時間。
いつでも一緒にいる僕たちは、今やすっごーく注目されちゃってる。
ま、推しと仲良くなれるのは本望だしいいんだけどね。
もとからかわいいって注目されてるから、別に視線は気にならないけどね。
「最近ずっと一緒にいるもんね。僕たちとの時間がなくなって悲しいな〜」
「えっ、ごめん!ふたりのこと全然考えられてなかった!」
そう慌てて謝ると、ふたりは顔を見合わせてクスッと笑った。
「うそうそ。別にいいよ、僕は湊士がよければぜーんぜん」
だけど、どこか梨仁の表情が暗かったのは見てしまった。
ふたりは親友って言えるくらい仲良いし、もっと関わりたいとも思ってる。
東歌くんだけ追いかけてちゃダメだよね。
「ありがとう氷翠。でも、もっとふたりといる時間作りたいし、また休みの日に遊びに行こうね」
すると、梨仁の表情は明るくなった。
「おう!なら、夏休みはプールにでもいこうぜ!」
「ちょっと梨仁、それは早くない?夏休みまでまだまだ1ヶ月以上あるんだけど」
氷翠の言葉に、みんなで笑った。
そして、放課後になった。
梨仁はバスケ部で、氷翠と僕は美術部。
ふたりで美術室に行って、今日も好きな絵を描く。
顧問の先生が意外とテキトーな先生で、コンクール前は部活に行くとかは自由。
ちなみに、コンクールは夏休みと冬休みの期間にある。
あとは体育祭と文化祭の掲示物を作ったりしてるかな。
ちなみに、僕は普段小説のイラストを描いてるんだ!
イラストレーターさんにこんな感じがいいですって見せると早く絵が仕上がるし、なによりイラストを描くのが楽しいんだ。
あっ、たまに東歌くんのイラストも描いてるんだ。
推しのイラストって描きたくなっちゃうよね〜。
「湊士、今日はなにを描くの?」
隣を歩く氷翠に聞かれて、僕は少し考えた。
次の小説はまだ仕上げてなくてイラストは描く必要ないよね。
だったら残すは——。
「推しのイラスト」
「ふっ、言うと思った」
僕が自信満々に言うと、氷翠が笑った。
それから部室に入ってそれぞれ席に着く。
うーん、今日はどうしよっかな。
水彩画、油絵、アクリル画、ペン画……。
「よし、アクリル画にしよ」
そうと決めた僕はアクリルガッシュを取り出して準備し、すぐに取りかかった。
***
そして早いもので1時間が経過した。
僕は一度一息つく。
あとは背景だけ。
どういう背景にしようかとルンルンで考えていると、突然美術室の扉が開いたのだ。
「ここに月丘湊士っている?」
僕はその声にすぐに視線を走らせた。
「と、東歌くん…!」
僕は思わず声を上げた。
よかった、絵は東歌くんからは見えないや。
さすがに本人に見られるのは恥ずかしいから。
「どうしたの?僕になにか用?」
僕はすぐに東歌くんに駆け寄った。
すると、少しだけ声をひそめて言った。
「図書委員の仕事頼まれた。月丘しか頼れないんだけど、一緒に来てくんない?」
「もちろん行くよ!ちょっと待ってて、片付けてくる!」
僕は目を輝かせた。
せっかくの東歌くんからのお誘いなのだ。
これに乗らないなんてあり得ない!
僕は絵の具やらなにやらを片付けて、リュックを背負った。
するとその時、氷翠が言った。
「東歌くんからのお誘い?」
視線はこっちに向けず、ずっと描き続けている。
器用だなぁと思いながら、僕は答える。
「まあ、そんなところ。図書委員の仕事だって」
「そっか。じゃあ、頑張ってね。また明日」
ようやくチラッと僕を見た。
僕は氷翠に笑いかけてから、東歌くんの方に向かった。
「ごめんね、遅くなって。行こっか」
「ああ」
そして僕たちは図書室に向かった。
***
「よし!終わったー!!」
本の整理が終わった僕たちは向かい合わせになって座った。
ちょっと休憩。
30分もかかっちゃったし、もうそろそろ最終下校の時間だ。
「次はどこ行こっか」
突然声をかけられて、僕は顔を上げた。
“次は”って、多分あの小説の材料集めのことだよね。
まずは王道エピソードで書いていきたいから、王道のデートスポットに行きたい。
となると遊園地とか水族館とかかな。
夏休みになればプールとか?
でも——。
「ちょっと嫌な顔してる」
そう言って東歌くんは僕の頬をなでた。
「あっ、えっとごめん…」
嫌な雰囲気にさせてしまった。
東歌くんも、少し不安そうに僕の表情を見てる。
「なんか嫌なこと思い出した?」
僕はその言葉にゆっくり頷いた。
特に水族館は大嫌いだ。
「言ってみ?」
「えっ?」
僕は勢いよく顔を上げて、東歌くんのことを見つめた。
「もし月丘がなにも言わないでほしいなら聞き流す。だから、教えて」
推しに弱気なところなんて見せたくない。
だけど、そんなふうに優しい声で言われたら——。
「えと…僕水族館は嫌い…で」
***
中学1年生の冬休み、俺には彼女がいた。
名前は御厨水愛、ひとつ上の先輩だった。
水愛先輩に水族館に行かないかと誘われて、デートをしたことがある。
だけどそこで、俺は嫌なものを目の当たりにした。
「ねえ湊士くん、ちょっと休憩にしない?」
「うん。そうしようか」
水愛先輩は優しい王子様が好みで、相変わらず俺は好きなタイプを演じていた。
「私アイス食べたいんだ。買ってくるから、湊士くんはここで待ってて」
「うん、わかった」
僕はなにも知らず、そこで待っていることを決めた。
その後なかなか水愛先輩は戻らなかった。
不思議に思った俺は、なにかあったのかと心配して探し始めた。
ラインしてみても既読にすらならない。
いよいよあせった俺は、全力で水愛先輩を探した。
結果、俺は後悔することになる。
「そろそろ戻らないと」
水愛ちゃんの声が聞こえて、俺は振り返った。
そこには暗い通路があり、少し奥に水愛先輩は男とふたりで立っていた。
その距離が明らかに恋人と同じようだったのは言うまでもなかった。
「水愛…先輩…」
「えっ?あ……湊士…くん…」
水愛先輩は明らかにあせった顔をしていた。
その表情で、俺は全てを悟った。
俺は浮気をされていたんだと。
それがわかった俺は、もうどうしようもないことに気がついてすぐにその場を後にした。
無理に笑ったただ一言。
「水愛先輩、また学校で」
その言葉に水愛先輩は答えなかった。
俺の背中には、水愛先輩の隣に立っていた男の視線が刺さった。
ふたりの視線から外れただろうと思い、すぐに俺は走り出した。
水族館をすぐに後にし、人通りの少ない公園にたどり着いた。
「なんだ…やっぱ恋愛って、ろくなことないですね…」
唇を噛み、俺は涙をこぼした。
人の気持ちは絶対に変わったしまう。
母さんだって父さんを捨てて出ていったんだ。
わかってた、ちゃんとわかってたよ。
それでも苦しい…苦しいよ…。
「もう、誰のことも好きになりたくない…」
俺はただひたすらに泣くことしかできなかった。
***
「——っと、まあこんなところかな。嫌な思い出が詰まった場所ばっかり」
僕は東歌くんの方を向けなかった。
今、どんな表情をしてるんだろう。
少し怖かったんだと思う。
空に浮かぶ夕日を見ている僕に、東歌くんは少しかすれた声で聞いた。
「どうして、そんなことされたんだ?」
僕は目をふせた。
どうして、どうして…か。
その答えを僕はよく知っていた。
「真面目に尽くしすぎなんだって。あれこれやってあげたり、細切れに記念日を祝ったり。まあ、僕は恋愛に向いてないってことだよ」
微笑んで言った。
だけど、東歌くんを見た瞬間僕の表情は崩れた。
まるで全てを射抜くような視線は、僕には耐え難いものだった。
そして次の瞬間、東歌くんはかすかに微笑んで言った。
「なら、俺が嫌な記憶全部上書きしてあげる」
「えっ?」



