その食べ方が好きなんです

「数字が一桁ずつずれてる。0が足りない。売り上げが一桁違ったら、紺野のボーナスも今期はゼロだ」

「す、すみません!」

 周りはくすくすと笑っている。

「やり直し」

「はい……」

 すごすごと書類を手に席へ戻った。付箋が多すぎる。

 午後は他の仕事もあるのに、これ、終わるの?ため息をついたら、ころころと椅子の音がする。同期の古賀君の席は私の席と背中合わせ。バックしてきた彼は私に言った。

「今日のノルマは無事達成。おめでとう。まだ午前中だから、午後からはのんびりできるぞ」

「古賀君、ひどい」

「しかしお前もすごいけど、課長も大したもんだよな。忙しいのに毎日、どこかしらお前のあらを探して叱ってる。いやあ、紺野。課長に好かれてるな」

「絶対嫌われてる……うう」

 上司としての課長は夏奈にとってやはり鬼門だ。

 だが、しかし。夏奈は課長を嫌いになれない。今現在、紺野夏奈の推し第一位は彼なのだから。

 * *
 
 夏奈がそれに気づいたのは、一年前の新人歓迎会の時だった。

「悪いけど、新人の席は決まってるの。紺野さんは課長の前のこの席。古賀君は部長の前よ。よろしくね」

「うへえ、新人ってやっぱり管理職の近くなのか……何話したらいいんだろう、どう思う紺野さん……」

 隣の古賀君は眼鏡をあげながら言う。

「とりあえず、お酌をしておけばいいんじゃないかな……」

 私は課長の目の前だったので、彼の食べ方を見ていた。

 驚くほど、その食べ方が綺麗だった。まず、口に運ぶ食べ物の量が適量なのか、入れすぎて口がリスのようになることもないし、大口を開けて食べることもない。