現在11時。私にとって、今日もあと一時間ほどで至福の時間がやってくる。もう少しの我慢だ。
それはランチの時間。食いしん坊でお腹がすいているとかではない。社食である人の食事風景をただ眺めるだけなのだが、これが最高なのだ。
考えただけでよだれが出る。私は男の人が綺麗に食事しているところを見るのが大好物だ。綺麗といっても明確な基準がある。
今の私の推し第一位は直属上司の柊彰人課長。彼は本当に綺麗な食べ方をする。詳しくはあと一時間後説明しよう。
課長は仕事のできるイケメンで有名。食べ方も綺麗なんだからさぞモテそうだがとにかく無表情で寡黙。入社一年目の去年はほとんど話したことのない直属上司だった。
それが二年目に入って、私にとって鬼門ともいえる人になった。突然、産休に入った先輩の代わりに課長のアシスタントに指名されてしまったからだ。
一年間ひたひたと隠してきた私のPC入力が苦手だという事実があらわとなり、大変な目にあっている。
毎日、必ず何かしら間違いを指摘されているので、課内では私が叱られるのを楽しみにしている風潮が最近ある。どういう風潮なんだ?!
今日はまだ叱られていない。いや、まだ午前中だからわからない。とにかく、あと一時間我慢すれば、彼の美しい所作が見られるのだ。わくわく。
「紺野。ちょっと」
頬杖をついて妄想していたら、低い声が前から聞こえた。あせって、口元をぬぐう。いっせいに課内の皆が私の方を見た。いやだ、今日も期待されている……はー。
「あ、はい……」
課長席の横に立つと、彼は美しい顔をこちらに向けた。表情は浮かんでいない。いつもと同じ能面のような顔。私の目線は彼の口元に集中した。これは彼を見るときの癖になった。
「売上表。付箋のついているところ、全部間違ってる」
私の目線は付箋がたくさんついた書類に遮られた。
「え?!これ全部ですか?」



