「紗奈!」
美咲の叫びが、狭い通路に響き渡った。
返事はない。
つい数秒前まで、確かに最後尾を歩いていた白石紗奈の姿は、跡形もなく消えていた。
「そんな……。」
悠斗は懐中電灯代わりのスマートフォンを左右へ向ける。
細い通路には、隠れられる場所などどこにもない。
左右は石壁。
天井は低く、人一人が通るだけで精いっぱいの幅しかない。
「紗奈! 返事して!」
結衣も声を張り上げる。
しかし返ってくるのは、自分たちの声が反響する音だけだった。
「おかしい……。」
蓮は壁を拳で軽く叩く。
コン、コン。
鈍い音が返るだけ。
隠し部屋があるようには思えない。
「皆様、こちらへ!」
通路の入口で霧島が叫んだ。
「すぐに戻ってください!」
「でも紗奈が!」
「今は危険です!」
霧島の声は震えていた。
その表情には焦りだけでなく、恐怖が浮かんでいる。
まるで、この状況になることを知っていたかのようだった。
◇
七人――いや、六人は急いで玄関ホールへ戻った。
館の中は異様な静けさに包まれている。
柱時計だけが、規則正しく時を刻んでいた。
カチ、カチ、カチ……。
「霧島さん!」
健人が詰め寄る。
「説明してください!」
「この館で人が消えるなんて、普通じゃありません!」
霧島は苦しそうに目を閉じた。
「……申し訳ありません。」
「謝ってる場合じゃない!」
蓮が怒鳴る。
「警察を呼んでください!」
美咲もスマートフォンを取り出す。
だが画面には、昨日と同じ文字。
圏外。
「電話が繋がらない……。」
悠斗も首を振る。
「俺もだ。」
全員のスマートフォンが圏外だった。
館の固定電話も試した。
受話器を上げても、何も聞こえない。
ツーという発信音すらない。
「電話線が切れている……?」
健人が呟く。
「そんな……。」
不安が、一気に現実味を帯びてきた。
外部と完全に連絡を絶たれている。
つまり今、この館で何が起きても、助けは来ない。
◇
「館を探しましょう。」
結衣が静かに言った。
「まだ館の中にいる可能性があります。」
霧島はゆっくり頷いた。
「私も同行します。」
六人と霧島は館中を捜索し始めた。
二階。
三階。
書斎。
音楽室。
礼拝堂。
客室。
厨房。
地下へ続く階段は見つからない。
紗奈の姿も見つからない。
一時間。
二時間。
時計の針だけが進んでいく。
誰もほとんど口を開かなかった。
◇
午後三時。
館の東側にある温室へ入った時だった。
「……見て。」
結衣が立ち止まる。
ガラス張りの温室の奥。
一輪だけ、黒い薔薇が折れていた。
その根元には――
「これ……。」
美咲がしゃがみ込む。
白いハンカチだった。
角には、小さく刺繍が入っている。
S.S
「紗奈のだ。」
昨日、夕食の時に使っていたものだった。
「ってことは……。」
悠斗が周囲を見回す。
その時だった。
ガタン!
温室の扉が突然閉まった。
「!」
全員が振り返る。
扉は固く閉ざされ、びくともしない。
「開かない!」
蓮が力いっぱい押す。
しかし動かない。
「鍵なんて掛かってないはずなのに!」
大翔も加勢する。
それでも開かない。
その瞬間だった。
館中のスピーカーから、ザーッというノイズが流れ始めた。
『……テスト。』
機械越しの声。
男とも女とも分からない。
全員が凍りつく。
『ようこそ。』
ザーッ。
『黒薔薇館へ。』
霧島の顔色が一気に変わった。
「まさか……。」
『ゲームを始めましょう。』
館中に、不気味な笑い声が響く。
『一人目は預かりました。』
『残り六人。』
『全員が無事に帰れる保証はありません。』
『館の秘密を暴けば、生きて帰れるでしょう。』
『ただし――』
ザーッ。
『犯人は、あなたたちのすぐ近くにいます。』
ブツン。
放送が途切れる。
静寂。
誰も声を出せない。
今の放送は何だったのか。
誰が話していたのか。
そして。
「犯人は、あなたたちのすぐ近くにいます。」
その言葉だけが、重く胸に残る。
悠斗がゆっくりと周囲を見渡す。
美咲。
結衣。
蓮。
健人。
大翔。
霧島。
全員が互いを見つめていた。
その視線には、昨日までなかった感情が宿っている。
疑い。
誰もが、「犯人はこの中にいるのではないか」と考え始めていた。
その時、美咲は気づく。
霧島の燕尾服の袖口に、小さな赤黒い染みが付いていることを。
血のようにも見えた。
霧島は慌てて袖を隠す。
その一瞬を、美咲は見逃さなかった。
館に閉じ込められた七人。
いや、今は六人。
彼らの間に生まれた疑心暗鬼は、これからさらに深まっていく。
そして、その日の夜。
黒薔薇館で、最初の殺人事件が幕を開けることになる。
美咲の叫びが、狭い通路に響き渡った。
返事はない。
つい数秒前まで、確かに最後尾を歩いていた白石紗奈の姿は、跡形もなく消えていた。
「そんな……。」
悠斗は懐中電灯代わりのスマートフォンを左右へ向ける。
細い通路には、隠れられる場所などどこにもない。
左右は石壁。
天井は低く、人一人が通るだけで精いっぱいの幅しかない。
「紗奈! 返事して!」
結衣も声を張り上げる。
しかし返ってくるのは、自分たちの声が反響する音だけだった。
「おかしい……。」
蓮は壁を拳で軽く叩く。
コン、コン。
鈍い音が返るだけ。
隠し部屋があるようには思えない。
「皆様、こちらへ!」
通路の入口で霧島が叫んだ。
「すぐに戻ってください!」
「でも紗奈が!」
「今は危険です!」
霧島の声は震えていた。
その表情には焦りだけでなく、恐怖が浮かんでいる。
まるで、この状況になることを知っていたかのようだった。
◇
七人――いや、六人は急いで玄関ホールへ戻った。
館の中は異様な静けさに包まれている。
柱時計だけが、規則正しく時を刻んでいた。
カチ、カチ、カチ……。
「霧島さん!」
健人が詰め寄る。
「説明してください!」
「この館で人が消えるなんて、普通じゃありません!」
霧島は苦しそうに目を閉じた。
「……申し訳ありません。」
「謝ってる場合じゃない!」
蓮が怒鳴る。
「警察を呼んでください!」
美咲もスマートフォンを取り出す。
だが画面には、昨日と同じ文字。
圏外。
「電話が繋がらない……。」
悠斗も首を振る。
「俺もだ。」
全員のスマートフォンが圏外だった。
館の固定電話も試した。
受話器を上げても、何も聞こえない。
ツーという発信音すらない。
「電話線が切れている……?」
健人が呟く。
「そんな……。」
不安が、一気に現実味を帯びてきた。
外部と完全に連絡を絶たれている。
つまり今、この館で何が起きても、助けは来ない。
◇
「館を探しましょう。」
結衣が静かに言った。
「まだ館の中にいる可能性があります。」
霧島はゆっくり頷いた。
「私も同行します。」
六人と霧島は館中を捜索し始めた。
二階。
三階。
書斎。
音楽室。
礼拝堂。
客室。
厨房。
地下へ続く階段は見つからない。
紗奈の姿も見つからない。
一時間。
二時間。
時計の針だけが進んでいく。
誰もほとんど口を開かなかった。
◇
午後三時。
館の東側にある温室へ入った時だった。
「……見て。」
結衣が立ち止まる。
ガラス張りの温室の奥。
一輪だけ、黒い薔薇が折れていた。
その根元には――
「これ……。」
美咲がしゃがみ込む。
白いハンカチだった。
角には、小さく刺繍が入っている。
S.S
「紗奈のだ。」
昨日、夕食の時に使っていたものだった。
「ってことは……。」
悠斗が周囲を見回す。
その時だった。
ガタン!
温室の扉が突然閉まった。
「!」
全員が振り返る。
扉は固く閉ざされ、びくともしない。
「開かない!」
蓮が力いっぱい押す。
しかし動かない。
「鍵なんて掛かってないはずなのに!」
大翔も加勢する。
それでも開かない。
その瞬間だった。
館中のスピーカーから、ザーッというノイズが流れ始めた。
『……テスト。』
機械越しの声。
男とも女とも分からない。
全員が凍りつく。
『ようこそ。』
ザーッ。
『黒薔薇館へ。』
霧島の顔色が一気に変わった。
「まさか……。」
『ゲームを始めましょう。』
館中に、不気味な笑い声が響く。
『一人目は預かりました。』
『残り六人。』
『全員が無事に帰れる保証はありません。』
『館の秘密を暴けば、生きて帰れるでしょう。』
『ただし――』
ザーッ。
『犯人は、あなたたちのすぐ近くにいます。』
ブツン。
放送が途切れる。
静寂。
誰も声を出せない。
今の放送は何だったのか。
誰が話していたのか。
そして。
「犯人は、あなたたちのすぐ近くにいます。」
その言葉だけが、重く胸に残る。
悠斗がゆっくりと周囲を見渡す。
美咲。
結衣。
蓮。
健人。
大翔。
霧島。
全員が互いを見つめていた。
その視線には、昨日までなかった感情が宿っている。
疑い。
誰もが、「犯人はこの中にいるのではないか」と考え始めていた。
その時、美咲は気づく。
霧島の燕尾服の袖口に、小さな赤黒い染みが付いていることを。
血のようにも見えた。
霧島は慌てて袖を隠す。
その一瞬を、美咲は見逃さなかった。
館に閉じ込められた七人。
いや、今は六人。
彼らの間に生まれた疑心暗鬼は、これからさらに深まっていく。
そして、その日の夜。
黒薔薇館で、最初の殺人事件が幕を開けることになる。



