名もなき空に、青い風が吹く

 『さっき、芦香が僕の部屋に乱入してきま
した。ノックをしないのはいつものことだし、
自分の家みたいに気軽に来てくれるのは嬉し
いけど焦って強く言っちゃった。芦香、怖い
顔しちゃってごめんね。

 僕の遺影を見ていた芦香の顎には傷があり
ました。そして、無茶をしてターザンロープ
から芦香と大翔が落ちたのが三日前。だから、
あと数日のうちに僕になにかが起こるんじゃ
ないかと思います。昨日、ネットで調べて五
年に一度、『狐の嫁入り行列』という式年祭
が行われる町があることをつきとめました。
病室の壁に狐の面が飾ってあったし、芦香が
走っていた光景とも重なるから土曜の午前中
にこの手紙が届くようにしようと思います。

 もちろん、僕はまだ諦めていません。三人
でこの手紙を読めるように頑張るつもりです。
だけど、もし、いま二人の傍に僕がいなかっ
たとしても、それは誰のせいでもないからね。

 なにがあっても二人には笑って生きていて
欲しいから、それだけ伝えておきます。

 それから、僕が僕の運命を変えられなかっ
た時は、お父さんとお母さんのことよろしく。
ひとり息子がいなくなったら、きっと寂しい
思いをするだろうから時々会いに行ってあげ
てください。

 最後に、僕たち三人はずっと一緒という証
を入れておきます。芦香、大翔、僕は二人が
いてくれたお陰で、人より十倍幸せな時間を
過ごせたと思ってるよ。二人のいとこで本当
によかった。
                郁海より』



 「……証って、もしかして」

 便箋を膝に置き、封筒をひっくり返してみ
る。手の平にころころ転がってきたのは『I』
のイニシャルが書かれたパズル型のキーホル
ダーで。それを目にした瞬間、視界がぐにゃ
っと歪んでしまう。

 もう揃わないと思っていたパズルのピース
が揃った。いっくんは、全部わかっててこの
手紙をわたしたちに送った。

 欠けていたピースが揃ったのに、いっくん
だけがいない。わたしたちの傍に、いっくん
がいない。

 ぎゅっと胸が苦しくなって、キーホルダー
に雫が落ちる。ぽろぽろとめどなく落ちてく
る雫を、わたしは必死に指先で拭った。