名もなき空に、青い風が吹く

 『芦香の手をにぎった時ね、僕には三つの
未来が視えました。一つ目は僕の遺影を見つ
めて呆然としてる芦香の顔。二つ目は病院の
ベッドに寝てる大翔の手を芦香がにぎってる
ところ。三つ目は狐面を付けた人たちの中を
走ってる芦香。視えた未来はどれも断片的で、
いつ、なにが起こるのかさっぱりわからなく
て、悩んだ。そしてものすごく考えた。視え
た未来を二人に伝えるべきかどうか。考えて、
考えて、僕は伝えるのをやめました。

 どうしてって、怒ってるかもしれないね。
でも、未来を知ることで本来の運命のレール
から車輪がズレてしまうのが恐かったんだ。
『大いなる力には大いなる責任がともなう』
っていう言葉を知ったのもあるけど、未来を
知らせることで、大翔が助かる運命が変わっ
てしまうのが恐かった。だから、僕はひとり
で自分の運命を変えようと思った。僕の運命
を変えられれば、大翔のために出来ることが
きっとあると思ったから。』

 手紙を持つ手が震える。呼吸が浅くなって
胸が苦しくなる。いっくんは、知ってたんだ。
自分が死んでしまうことを。なのに、言わな
かった。大翔の運命が変わってしまうことを
恐れて、ひとりで戦ってた。

 「……そんなの、怒るよ。言ってくれれば、
言ってくれればっ!!」

――未来はどう変わっていただろう?

 死ぬはずだったいっくんが、助かったかも
しれない。でも、助かるはずだった大翔が命
を落とすかもしれない。これから起こること
が視えてそれを変えようとするのは、ものす
ごく恐いことなんだ。

 いっくんには大翔が助かる未来が視えて、
わたしには大翔が死ぬ未来が視えたという違
いも、大きい気がする。もし、わたしと同じ
ように最悪の未来が視えていたら、いっくん
の選択は違っていたかもしれない。

 きゅっ、と唇を噛みしめるとわたしは手紙
を捲った。