名もなき空に、青い風が吹く

 「……そんな、どうして」

 上手く息が出来なくて、頬が引きつってし
まう。一羽の白いハトが描かれている封筒を
まじまじと見つめていると、看護師は笑みを
浮かべた。

 「『みらい郵便』があるなんて知らなかっ
たから、驚きました。そういうのは物語の中
だけの話だと思ってたから」

 「……みらいゆうびん?」

 「そう書いてありますよね?ほら、ここ」

 看護師が封筒を指さす。表面の郵便番号の
上に朱色のスタンプが押してある。てっきり
速達のスタンプだと思っていたけれど、四角
い枠の中には『みらい郵便』と書かれていた。

 「ほんとだ、気付かなかった」

 「未来の自分に手紙を送ることなら出来そ
うだけど、ここは病院でしょう?世の中には
不思議なことがあるものだねって看護師たち
と話していたんです。でも、そう。やっぱり
あなたが芦香さんなのね。渡せてよかった」

 笑みを深めると、看護師はなにごともなか
ったように一礼して病室を出て行く。わたし
はもう一度手紙を裏返して差出人を確認する
と、丸椅子にすとんと腰かけた。

 水色の封筒と大翔の寝顔を交互に見る。

 わたしと大翔宛にいっくんから届いた手紙
だけど、大翔が目を覚ますのをとても待って
いる気になれなくて封を切る。震える手で中
から便箋を取り出すと、力強い字でぎっしり
文章が書かれていた。

 見覚えのある字をそっと指でなぞる。

 『この手紙は保険です。僕が自分の運命を
変えられなかった時の保険。』

 そんな書き出しに驚きと切なさを抱きつつ、
わたしは手紙に目を走らせた。

 『いきなりなにわけのわからないこと言っ
てるんだって思うよね。保険だの、運命だの、
二人とも意味がわからな過ぎて、ポカンとし
てると思う。だけど、いまなら本当のことを
伝えられる。そう思って、僕はこの手紙を書
いています。だから最後まで読んでください。

 二人にはずっと内緒にしていたけど、僕に
は未来や過去が視える力があります。信じら
れないだろうけど、本当だよ。未来が視えた
から僕は病院にいる二人に手紙を送ることが
出来たんだ。』

 「……信じるよ、いっくん。信じる」

 だって、わたしにも大翔にも同じ力がある
から。手紙を書いているいっくんを思い浮か
べ、頷く。いっくんに能力があったことは、
この病院に手紙が届いたことが証明している。

――でも、なんで『いま』なんだろう?

 なぜわたしたちに黙っていたのか、わけを
知りたくてわたしは続きを読んだ。