名もなき空に、青い風が吹く

 「お変わりありませんか?」

 「はい、特には」

 よくわからないけれど咄嗟に答えてしまう。

 「お熱測りますね」

 細長いケースから体温計を取り出した看護
師に頷き、見守っていると、間もなくピピッ
と電子音が聞こえた。

 「三十八度二分」

 「えっ、そんなに高いんですか?」

 どうりで手が温かいわけだと、目を瞬く。

 「術後に発熱するのは普通のことだから心
配いりませんよ。二、三日もすれば下がると
思います」

 表情ひとつ変えずそう説明すると、看護師
は血圧と脈拍を測り、最後に点滴の速度を調
整した。そして、パソコンになにかを打ち込
むと顔を上げる。

 「問題ありませんね。次は日勤の者が来ま
すので、なにかあったら声をかけてください」

 「はい、ありがとうございます」

 恭しく頭を下げ、お礼を述べると、なぜか
看護師がわたしの顔を覗き込んだ。じいっと
探るようなまなざしを向けられ、思わず体を
硬くしてしまう。もしかして、なにかやっち
ゃダメなことしてる?チューブ踏んでるとか。

 不安になって、ちらっと足元に目をやって
いると看護師が訊ねてきた。

 「もしかしてあなた、増山芦香さん?」

 「は、はいっ、そうですけど」

 どういうわけか名前を知っている看護師に、
こくりと頷く。すると、看護師は大きく息を
吐き、胸に手をあてた。

 「やっぱり」

 「あの、やっぱり、とは?」

 「実は昨日の朝、病棟宛に手紙が届いたん
です。でも、仲空大翔という人も、増山芦香
という人もうちには入院していない。だから
誤配だろうと思って送り返そうとしていたん
ですよ」

 「手紙???わたしと大翔宛に、ですか?」

 わけがわからず首を傾げていると、看護師
がワゴンから水色の封筒を取り出す。それを
受け取って、差出人を見たわたしは、言葉を
失った。

――仲空 郁海。

 そこには、わたしたちの大切な幼なじみの
名が書かれていた。急に指先が冷たくなって、
カタカタと手が震え出す。