名もなき空に、青い風が吹く

 「いたっ!!」

 思わず声を上げると、わたしは弾かれたよ
うに参道の反対側に走り出した。提灯を持っ
て歩いている女性の前を突っ切って、群衆の
中に潜り込む。そこを抜け出すと灯篭の傍ら
にいたお父さんはわたしに気付き、目を丸く
した。

 「芦香さん」

 カメラのレンズを手に呟いたお父さんに、
わたしは息を切らして言った。

 「よかったっ、もう……見つからないかと」

 肩で息をしながら胸に手をあてる。手の平
にどくどくと鼓動が伝わってくる。

 「探させちゃって悪かったね。なんど大翔
に電話しても繋がらないから、場所を動いて
しまったんだ。あれ、大翔は?一緒じゃない
のかい?」

 お父さんの視線がわたしの周囲を彷徨う。
 わたしは息を整えると、伝えなければなら
ないことを口にした。

 「大翔はいま、病院にいます」

 「病院?」

 一瞬でお父さんの顔が曇る。
 わたしはこくりと頷き、言葉を続けた。

 「神社に向かうバスが事故に遭って、それ
で、大怪我を負って、医療センターに」

 ぽろっと手からレンズが滑り落ちて、玉石
の上に着地した。お父さんは眉間に深いシワ
を刻むと、わたしを覗いた。

 「……それで、大翔は?」

 「折れた肋骨が内蔵を傷付けてるみたいで、
手術しなきゃならないんです。でもっ、ちっ、
血を準備できないって、看護師さんが」

 その言葉にお父さんが目を見開く。そして、
表情を止めたまま、こちらに一歩近づいた。

 「それは、大翔と同型の血液がないという
ことだよね?それがあれば、手術できると?」

 「はいっ」

 「僕が同じ型だ」

 「……っ!!」

 「僕も大翔と同じボンベイ型だ」

 もう、言葉にならなかった。これでわたし
が視た未来は、消えてなくなるの?両手で口
を塞ぐと、わたしはへなへなとその場にしゃ
がみ込んだ。

 運命のバトンをお父さんに渡せたような気
がして、足に力が入らない。

 「芦香さん!?」

 お父さんが慌ててわたしの顔を覗く。むき
出しになっている膝から血が流れているのを
見て、はっと息を飲んだ。

 「怪我しているじゃないか」

 ポケットからハンカチを取り出して、膝に
あてようとする。わたしはお父さんの手を押
し返すように握った。