名もなき空に、青い風が吹く

 止めるべきだったんだ。たとえ大翔に嫌わ
れても、喧嘩をすることになっても、全力で
止めるべきだった。この能力が役に立たない
んじゃない。今日なにかが起こることを知っ
ていながら、大翔を行かせてしまったわたし
がポンコツだったんだ。

 視えた未来に向かって回る歯車を止められ
なかった自分に、拳を握りしめる。手の平に
爪が食い込むほど強く握りしめるとわたしは、
細く息を吐き出した。

 いくら悔やんだって時間を元に戻すことは
出来ない。わたしには未来の断片を視る能力
しかない。でもそれが視えていなければ、わ
たしはここにいない。――だから考えるんだ。

 わたしが未来を視た意味を。
 わたしがここにいる意味を。
 わたしだから出来ることを。

 呼吸を止めて一点を見つめる。視界がぼや
けていく代わりに、さまざまなシーンが頭に
浮かんでは消える。カメラを向け「自分をイ
ジメんな」と言った大翔、二人で並んで観た
モザイクのひまわり、被ったと嘆きながらア
イスコーヒーを飲み干した横顔、そして――。
ふと、大翔のお父さんの顔が脳裏をよぎって、
わたしは肩を震わせた。

 『神楽殿の前で待ち合わせをしよう』

 その言葉と一緒に渡された紙切れの感触が、
指先によみがえる。

 「……もしかして」

 わたしは急いで財布から名刺を取り出した。

「photographer 佐竹 (まもる)」の文字を指でな
ぞり、携帯番号をスマホのキーパッドに打ち
込む。どきどきと心臓の音が鼓膜にまで響い
てうるさい。わたしはミドリの通話ボタンを
タップし、受話口の向こうに意識を集中した。

 けれど、ププッという発信音のあとに聴こ
えてきたのは通話中を告げる音だった。ツー、
ツーと無機質な音を耳にしたわたしは、すぐ
に電話を切った。

 そして長い廊下を見つめ、おもむろに一歩
踏み出す。タクシーを降りてここまで走り続
けた体は重力に屈してしまいそうなほど重か
ったけれど、電話が繋がらないなら行くしか
ない。わたしはなにかに背中を押されるよう
に、走り出した。

 「きゃっ!!」

 「ごめんなさい!」

 走り出してすぐ通路から出てきた看護師に
ぶつかりそうになって、くるっと、かわす。
バタバタと足音をさせて病院の中を疾走する
わたしに、大勢の視線が突き刺さったけれど、
足を止めることなんか出来なかった。

 クリーム色の床を蹴り、救命救急センター
の出口を飛び出すと、わたしは神社に向かっ
て猛スピードで走り始めた。