「あのっ」
「はい?」
ぴたっと立ち止まって振り返った女性に口
をパクパクする。早く訊かなきゃと思うのに、
言葉が喉に詰まって上手く出てこない。
「……えっと、わたし、ひっ、じゃなくて、
その、仲空くんの友だちなんですけど」
つっかえながら大翔の名前を出すと看護師
が目を見開いた。透明のフェイスシールド越
しに、じっとわたしを見つめる。
「仲空大翔さんのお友だち?」
「はいっ、あの、大翔は……」
そこでまた言葉を詰まらせると、看護師は
クリップボードを抱えて声を潜めた。マスク
でくぐもった声に、耳を傾ける。
「折れた肋骨で脾臓を損傷しています。大
量出血の恐れがあるので早く手術をしたいん
ですが、仲空さんと同じ型の血液を準備する
のが難しくて……」
どくんと痛いくらい心臓が跳ねる。寒いわ
けじゃないのに奥歯がカタカタ震えてしまう。
わたしは看護師に一歩近づいた。
「そ、それってボンベイ型のことですよね?
大翔は、ちゃんと登録しているから大丈夫だ、
って」
「それが、冷凍保存血の在庫がなくて……。
稀血ネットワークの方に連絡して登録献血者
を探しているところなんですが、かなり時間
がかかりそうなんです」
やっぱり大丈夫じゃなかった。嫌な予感が
見事に的中して、膝からくずおれそうになる。
「じゃあ、大翔は……」
――どうなるんですか?
とは聞けなかった。聞かなくても大翔がど
うなるか知っている。
知っているから、わたしはいま、ここにい
るのだ。
消え入りそうな声で訊いたわたしに、看護
師が眉を顰める。沈黙が数秒ほど流れてどち
らともなく口を開きかけた時、廊下の向こう
から男性の声がした。
「田中さん、ちょっといいですか?」
「はい」
返事をすると、ちらっとわたしの顔を覗き、
看護師が去ってゆく。その背中を突っ立った
まま見送ったわたしは、ふらふらと車椅子の
横に戻った。黒いハンドルに手を乗せ、救命
救急室の扉を見つめる。ベッドの上で青白い
顔をしている大翔を想像し、ハンドルに中指
の爪を立てる。
「はい?」
ぴたっと立ち止まって振り返った女性に口
をパクパクする。早く訊かなきゃと思うのに、
言葉が喉に詰まって上手く出てこない。
「……えっと、わたし、ひっ、じゃなくて、
その、仲空くんの友だちなんですけど」
つっかえながら大翔の名前を出すと看護師
が目を見開いた。透明のフェイスシールド越
しに、じっとわたしを見つめる。
「仲空大翔さんのお友だち?」
「はいっ、あの、大翔は……」
そこでまた言葉を詰まらせると、看護師は
クリップボードを抱えて声を潜めた。マスク
でくぐもった声に、耳を傾ける。
「折れた肋骨で脾臓を損傷しています。大
量出血の恐れがあるので早く手術をしたいん
ですが、仲空さんと同じ型の血液を準備する
のが難しくて……」
どくんと痛いくらい心臓が跳ねる。寒いわ
けじゃないのに奥歯がカタカタ震えてしまう。
わたしは看護師に一歩近づいた。
「そ、それってボンベイ型のことですよね?
大翔は、ちゃんと登録しているから大丈夫だ、
って」
「それが、冷凍保存血の在庫がなくて……。
稀血ネットワークの方に連絡して登録献血者
を探しているところなんですが、かなり時間
がかかりそうなんです」
やっぱり大丈夫じゃなかった。嫌な予感が
見事に的中して、膝からくずおれそうになる。
「じゃあ、大翔は……」
――どうなるんですか?
とは聞けなかった。聞かなくても大翔がど
うなるか知っている。
知っているから、わたしはいま、ここにい
るのだ。
消え入りそうな声で訊いたわたしに、看護
師が眉を顰める。沈黙が数秒ほど流れてどち
らともなく口を開きかけた時、廊下の向こう
から男性の声がした。
「田中さん、ちょっといいですか?」
「はい」
返事をすると、ちらっとわたしの顔を覗き、
看護師が去ってゆく。その背中を突っ立った
まま見送ったわたしは、ふらふらと車椅子の
横に戻った。黒いハンドルに手を乗せ、救命
救急室の扉を見つめる。ベッドの上で青白い
顔をしている大翔を想像し、ハンドルに中指
の爪を立てる。



