名もなき空に、青い風が吹く

 入ってすぐのところにある受付窓口には、
誰もいなかった。壁にぽっかり空いた窓から
煌々と白い灯りが漏れているだけで、大翔が
どこにいるのか聞きたくても、聞ける人がい
ない。息をつきサコッシュからスマホを取り
出すと、わたしは一か八か鷲塚さんに電話を
かけてみた。「お願い、出て」と、心の中で
祈りつつコールを待つこと六回。

 やっぱりダメか、と思って電話を切ろうと
した瞬間『もしもし?』と声が聴こえてきた。

 「鷲塚さん?医療センター着いたんだけど、
いまどこにいるの?」

 口に手をあてて声のトーンを落とす。電話
の向こうはさっきと打って変わって雑音ひと
つなく、鷲塚さんの声がクリアに聴こえる。

 『救命救急室の前にいる。待ってて、いま
そっちに迎えに行く』

 「うん、受付の前にいるね」

 短いやり取りを終えて電話を切ると、まも
なく廊下の向こうから鷲塚さんが歩いて来る
のが見えた。目が合った刹那、心の底をなに
かに突き上げられたわたしは、思わず駆け寄
って彼女の両腕を掴んだ。

 「会えてよかった。鷲塚さんは?怪我して
ない?」

 「ちょっとガラスで手を切ったけど、わた
しは大丈夫。それよりごめんね、途中で電話
切れちゃって」

 「ううん。あの後かけ直したんだけど電話
中だったから、とにかく急いでここに来たの」

 その言葉にうなずき歩き出した鷲塚さんの
隣に並ぶ。左手の甲に大きな絆創膏が貼って
あるのが見えて、わたしは触れないように少
し距離を取った。

 「親から電話きてずっと話してたから」

 「そうだったんだ。もう親御さん、知って
るんだね」

 「うん、ネットのニュース速報見たらしく
てすぐに電話がきたの。まさかこんな事故に
巻き込まれると思ってなかったって、パニク
ってて大変だった」

 小さく肩を竦めて見せた鷲塚さんの横顔を
覗く。涙が乾いた跡が残っているのが見えて、
ずきんと胸が痛む。まるでなんでもないよう
な顔をして話しているけれど、死ぬほど怖い
思いをしたに違いない。

 大翔のカメラを持ってガタガタ震えていた
鷲塚さんを思い出し、わたしは眉を寄せた。