名もなき空に、青い風が吹く

 思い通りにならない能力に、くしゃっと顔
を歪める。なんのためにこの能力があるんだ
ろう?大事な人を守れないなら、未来が視え
たって仕方ないのに……。

 下を向いていると、ふいに遠くに聞こえて
いたざわめきが、鼓膜を揺さぶった。

 「やばいね、これ絶対死人でるよ」

 人ごみの中からそんな言葉が聞こえた瞬間、
わたしはくるりと踵を返した。

 早く大翔のところに行かなきゃ。その想い
に駆られ、全力で走る。息を吸うたびに肺が
きしんでも、苦しくて視界が霞んでも足を止
められない。少しでも動かす手足を緩めたら
神様が大翔を連れていってしまう気がして、
わたしは千切れそうなほど大きく手足を振り
続けた。

 交通規制から解放された車が道路に溢れて
いるのを視界の端に捉えつつ、どんどん道な
りに走っていく。時折り風に乗って聞こえる
サイレンの音に振り返りそうになりながらも、
一点を見つめ前に進んだ。

 すると、前方に通行止めの立て看板が見え
てきた。その向こうに、ぞろぞろとたくさん
人が歩いているのが見える。

 神社だ。たしか、神社を超えたら三つ目の
交差点を曲がるんだっけ?

 酸欠気味の頭で運転手さんが言ってたこと
を思い出すと、わたしは赤と白の立て看板を
突っ切って一瞬だけ通りを向いた。

 両側にずらっと店が並んでいて、香ばしい
匂いが漂ってくる。神社からまっすぐ伸びる
門前町は人々の楽し気な笑い声と熱気に満ち
ていて、いま、この瞬間、同じ空の下で悲惨
な事故が起きていることが信じられなかった。

 祭りの喧騒を振り切るように前を向いたわ
たしは、病院を目指してひたすら走り続けた。
三つ目の交差点を超え、辿り着いた真っ白な
建物はあまりに無機質で巨大すぎて、わたし
は立ち尽くしてしまった。

 広大な敷地をぐるっと回って救命救急セン
ターの入り口に行くと、赤色灯だけ点灯して
いる救急車が二台止まっていた。医師や看護
師がストレッチャーに付き添って、足早に中
に入っていく。その様子を遠巻きに見ていた
わたしはごくりと唾を飲み、恐る恐る院内に
足を踏み入れた。