「あのっ、二四六八円で行けるところまで
行ってもらえますか?」
「はあ」
「そこで降ります。二四六八円になったら、
止めてください」
身を乗り出してうったえると運転手さんは
小さく頷き、車が走り始める。
駅前ロータリーを出て大通りを走り始めた
タクシーメーターを、わたしは「お願い、上
がらないで」と祈りながらじーっと見つめた。
一人でタクシーに乗ること自体初めてでどき
どきするのに、メーターが上がるたびに別の
緊張でさらに心拍数が上がる。
なんでこんなことになっちゃったんだろう。
電車の遅延といい、金欠といい、本当につい
てない。そう思ってため息をついた時だった。
タクシーが大通りからすっと、脇道に入った。
車の波に飲まれようとしていたタクシーが、
穏やかな風景の中を走り抜ける。もしかして、
これって。フロントガラスの向こうに広がる
小金色の畑を見て目を瞬くと、わたしは控え
目な声で言った。
「……ありがとうございます」
「はい?」
「近道ですよね?」
「まあ、多少は。途中で降りることにはな
りますけど」
「お祭り、たくさん人来るんですね」
「ええ、かなり来ますよ」
「あんなにバス停並んでると思わなくて、
驚きました」
蛇のようにぐねぐねと続いていた列を思い
出せば、声にため息が交ざってしまう。もし
あの列に並んでいたら神社に向かえないまま、
途方に暮れていたに違いない。
タクシーに乗って、正解だった。
「この二日間は町じゅう狐だらけになるん
です。どこもかしこも、狐面を付けた人で溢
れる。奇祭と言われるだけあって、全国から
人が来るんですよ。テレビ局やカメラマンも
いっぱい来るから、前の方にいれば映るかも
しれませんよ」
緩やかにハンドルを切りつつ、運転手さん
が話してくれる。“カメラマン”というワード
を耳にした瞬間、思わず顔が綻んでしまった。
「そっか。カメラマンもたくさん来るんで
すね。実はわたし、撮影を手伝いに行くとこ
ろなんです」
「へぇ、アシスタントさんでしたか」
「いえ、アシスタントという訳じゃなくて」
「はあ」
「ただの荷物持ちです。アシスタントをす
る友だちのアシスタント、というか」
言ってから恥ずかしくなって、あはは、と
笑ってごまかす。運転手さんはバックミラー
越しにわたしを見ると「ふむ」と鼻を鳴らし、
二度頷いた。
行ってもらえますか?」
「はあ」
「そこで降ります。二四六八円になったら、
止めてください」
身を乗り出してうったえると運転手さんは
小さく頷き、車が走り始める。
駅前ロータリーを出て大通りを走り始めた
タクシーメーターを、わたしは「お願い、上
がらないで」と祈りながらじーっと見つめた。
一人でタクシーに乗ること自体初めてでどき
どきするのに、メーターが上がるたびに別の
緊張でさらに心拍数が上がる。
なんでこんなことになっちゃったんだろう。
電車の遅延といい、金欠といい、本当につい
てない。そう思ってため息をついた時だった。
タクシーが大通りからすっと、脇道に入った。
車の波に飲まれようとしていたタクシーが、
穏やかな風景の中を走り抜ける。もしかして、
これって。フロントガラスの向こうに広がる
小金色の畑を見て目を瞬くと、わたしは控え
目な声で言った。
「……ありがとうございます」
「はい?」
「近道ですよね?」
「まあ、多少は。途中で降りることにはな
りますけど」
「お祭り、たくさん人来るんですね」
「ええ、かなり来ますよ」
「あんなにバス停並んでると思わなくて、
驚きました」
蛇のようにぐねぐねと続いていた列を思い
出せば、声にため息が交ざってしまう。もし
あの列に並んでいたら神社に向かえないまま、
途方に暮れていたに違いない。
タクシーに乗って、正解だった。
「この二日間は町じゅう狐だらけになるん
です。どこもかしこも、狐面を付けた人で溢
れる。奇祭と言われるだけあって、全国から
人が来るんですよ。テレビ局やカメラマンも
いっぱい来るから、前の方にいれば映るかも
しれませんよ」
緩やかにハンドルを切りつつ、運転手さん
が話してくれる。“カメラマン”というワード
を耳にした瞬間、思わず顔が綻んでしまった。
「そっか。カメラマンもたくさん来るんで
すね。実はわたし、撮影を手伝いに行くとこ
ろなんです」
「へぇ、アシスタントさんでしたか」
「いえ、アシスタントという訳じゃなくて」
「はあ」
「ただの荷物持ちです。アシスタントをす
る友だちのアシスタント、というか」
言ってから恥ずかしくなって、あはは、と
笑ってごまかす。運転手さんはバックミラー
越しにわたしを見ると「ふむ」と鼻を鳴らし、
二度頷いた。



