名もなき空に、青い風が吹く

 心の中で大翔にジト目を向けると、わたし
は「楽しみです」と満面の笑みを返した。

 アイスコーヒーを飲み干したパフェグラス
が、大翔からお父さんに渡る。お父さんは細
長いスプーンを受け取り、コーヒー味のアイ
スとゼリーが絶妙に混ざり合ったそれを食べ
ながら話を進めた。

 「アシスタントの件だけど、当日は大翔と
鷲塚さんにサブ写真を撮ってもらおうと思っ
てる。お父さんは正面から撮るから、二人は
行列の後ろと横のカットを押さえて欲しい」

 「わかった。どっちがどこのカットを担当
するか相談しておく」

 「ああ、そうしてくれ。後ろのカットは橋
を渡るタイミングを狙うことになるから難し
いんだ。背景に鳥居を入れて臨場感を出すの
を忘れずに」

 「一瞬で構図を決めなきゃならないね」

 「行列はゆっくり動くから、そう焦ること
はないよ。現地入りしたら一緒に撮影位置を
確認しよう」

 「うん」

 すごい、なんか本格的だ。わたしは話を聞
きながらほろ苦くて甘いゼリーを、つるんと
飲み込む。アシスタントという体で、なんて
軽い感じで言っていたからもっと簡単なこと
を手伝うのだと思っていた。でも、任される
内容は実践的で、二人の顔は真剣そのものだ。

 テーブルに神社の見取り図を広げ、お父さ
んが太鼓橋のところと参道の真ん中辺りに赤
ペンで丸印をつける。それを見ながら予備バ
ッテリーとか交換用レンズのこととか専門的
な話を進める。わたしはパフェグラスの底に
沈んでいるゼリーを黙々と口に運び、時折り
わかったような顔をして、うんうん、と頷い
ていた。

 やがて話が終わるとお父さんが目を向けて
くれる。空気のように存在を消していたわた
しは、突然スポットライトを当てられたみた
いに、はっとして、背筋を伸ばした。

 「つい話し込んでしまったね。話に入れな
くて退屈だったでしょう」

 「いえっ、ぜんぜん退屈じゃなかったです。
ただ大翔も写真撮るんだって、びっくりしま
した。荷物持ちとか、もっと簡単なこと頼ま
れるのかと思ってたから」

 慌てて顔の前で手を振る。するとお父さん
は、ふっと笑みを深めて言った。