「『狐の嫁入り行列』は五年に一度行われ
る奇祭でね。狐面を付けた人が一〇〇人くら
い門前町から境内まで練り歩くんだ」
カバンからパンフレットを取り出してわた
したちに見せてくれる。パフェスプーンで
濃厚なコーヒーゼリーを掬っていたわたしは、
ぴたりと手を止めた。
『月夜のうたげ』と書かれたパンフレット
は、まるで異世界の招待状のようだった。朱
い光に浮かび上がる神社と白い狐面を付けた
花嫁の姿が神秘的で、どこかから狐の鳴き声
が聞こえてきそうだ。満岡稲荷神社で開催さ
れる祭りは土日の二日間。お父さんの話だと、
数万人の来場者が訪れるらしい。町を挙げて
の一大イベントである『狐の嫁入り行列』は
来場者参加型で、全員に狐面が配られるとい
うことだった。
「お面を被れば行列に混ざってもいいのか
な?なんか楽しそうだよね」
行列を思い浮かべつつ地元の盆踊りに参加
するくらいの感覚で口にすると、大翔が光の
速さで突っ込んでくる。
「混ざっていいわけないじゃん。祭りを盛
り上げるための演出なのに、参加者が混ざっ
たら行列の雰囲気ぶち壊しだろ」
「そんな全力で否定しなくても。一緒に歩
けたら楽しいだろうなって思っただけ」
「芦香の場合、本気でやりそうだから怖い」
「やらないよ。わたし、そこまでズレてな
いから」
ズズっとアイスコーヒーを飲み干し素知ら
ぬ顔で言った大翔に、頬を膨らませる。多少
ズレたところがあるのは自覚しているけれど。
ノンデリだって、いっくんに言われたことも
あるけれど。空気を読めないほどズレてはい
ない、と思う。
そこで会話が途切れてしまったわたしたち
を見てお父さんは、ははっ、と肩を揺らした。
「行列には参加できないけど間近で観られ
るから一体感はすごいよ。神社全体が雅楽の
音と神秘的な空気に包まれるんだ。芦香さん
もきっと感動すると思う」
名前を呼ばれて、どきっ、としてしまう。
会ったばかりなのに苗字じゃなく名前で呼ん
でくれたことが、嬉しいけど、ちょっと照れ
くさい。会う前からわたしのことを聞いてた
からかもしれないけど、親しみやすい人だな。
しかも、すごくやさしい。大翔の三倍くらい。
る奇祭でね。狐面を付けた人が一〇〇人くら
い門前町から境内まで練り歩くんだ」
カバンからパンフレットを取り出してわた
したちに見せてくれる。パフェスプーンで
濃厚なコーヒーゼリーを掬っていたわたしは、
ぴたりと手を止めた。
『月夜のうたげ』と書かれたパンフレット
は、まるで異世界の招待状のようだった。朱
い光に浮かび上がる神社と白い狐面を付けた
花嫁の姿が神秘的で、どこかから狐の鳴き声
が聞こえてきそうだ。満岡稲荷神社で開催さ
れる祭りは土日の二日間。お父さんの話だと、
数万人の来場者が訪れるらしい。町を挙げて
の一大イベントである『狐の嫁入り行列』は
来場者参加型で、全員に狐面が配られるとい
うことだった。
「お面を被れば行列に混ざってもいいのか
な?なんか楽しそうだよね」
行列を思い浮かべつつ地元の盆踊りに参加
するくらいの感覚で口にすると、大翔が光の
速さで突っ込んでくる。
「混ざっていいわけないじゃん。祭りを盛
り上げるための演出なのに、参加者が混ざっ
たら行列の雰囲気ぶち壊しだろ」
「そんな全力で否定しなくても。一緒に歩
けたら楽しいだろうなって思っただけ」
「芦香の場合、本気でやりそうだから怖い」
「やらないよ。わたし、そこまでズレてな
いから」
ズズっとアイスコーヒーを飲み干し素知ら
ぬ顔で言った大翔に、頬を膨らませる。多少
ズレたところがあるのは自覚しているけれど。
ノンデリだって、いっくんに言われたことも
あるけれど。空気を読めないほどズレてはい
ない、と思う。
そこで会話が途切れてしまったわたしたち
を見てお父さんは、ははっ、と肩を揺らした。
「行列には参加できないけど間近で観られ
るから一体感はすごいよ。神社全体が雅楽の
音と神秘的な空気に包まれるんだ。芦香さん
もきっと感動すると思う」
名前を呼ばれて、どきっ、としてしまう。
会ったばかりなのに苗字じゃなく名前で呼ん
でくれたことが、嬉しいけど、ちょっと照れ
くさい。会う前からわたしのことを聞いてた
からかもしれないけど、親しみやすい人だな。
しかも、すごくやさしい。大翔の三倍くらい。



