名案とばかりにポンと手を叩く。けれど、
目をきらきらさせ顔を覗き込んだわたしに、
大翔は即答した。
「やだ。いま甘い物食べたい気分じゃない。
腹もそんな減ってないし」
「もうっ、少しは気ぃ使ってよね。これで
も緊張してるんだからさー」
口を尖らせ、大翔の肩を人差し指で突く。
バイトの面接に来てるくらいの心持ちでいる
というのに、大翔はわたしの緊張なんかお構
いなしだ。お父さんに紹介したいって言った
のは、そっちじゃん。大翔のお父さんだから
よく見られたいのに。
そう思ってむくれた顔をガラスの向こうの
青空に向けた時だった。
「待たせてしまったね」
陽だまりを包むようなやさしい声がして視
線をそちらに向けると、黒いカバンを提げた
長身の男性が立っていた。大翔のお父さんだ。
わたしは慌てて、すっくと立ち上がった。
「こっ、こんにちは。増山芦香です。今日
は突然お邪魔してしまってすみません」
いまのやり取りが聞こえてたらどうしよう。
内心、ひやっとしながら頭を下げる。すると、
ふと笑った気配がした。わたしはゆっくり顔
を上げ、一目で大翔のお父さんとわかるその
人を見つめた。
「佐竹です。こちらこそ待ち合わせに遅れ
て悪かったね。ちょっと打ち合わせが長引い
てしまって」
柔らかく笑んで腰かけるよう勧めてくれる。
わたしが椅子に座ると自分も向かい側の席に
座り、カバンを隣の椅子に置いた。そして腕
を組み、テーブルに身を乗り出す。わたしは
なにを言われるのだろうと緊張し、少しだけ
肩に力を入れた。
「やっと会えた。ずっと会いたいと思って
いたから、来てくれて良かった」
瞬く間に心が軽くなる。身構える必要なん
てなかったんだ。一気に緊張が解けたわたし
は照れ笑いを浮かべつつ、テーブルを挟んで
座っているお父さんを見た。
長い前髪の奥にある瞳の黒さも、しゅっと
した顔に合う小さめの唇も、大翔と同系列の
ものだ。似てるな。この二人は間違いなく血
を分けた親子だ。数十年後の大翔を見られた
ような気がして、なんだか得した気分だった。
さりげなく二人を観察していると、わたし
の横にピンと背筋を伸ばしたウエイターがや
って来た。
「ご注文はお決まりですか?」
コロンとした薄張りグラスに注がれた水を、
お父さんの前に差し出す。メニューを広げて
ざっと目を通したお父さんは、わたしたちに
視線を投げかけた。
目をきらきらさせ顔を覗き込んだわたしに、
大翔は即答した。
「やだ。いま甘い物食べたい気分じゃない。
腹もそんな減ってないし」
「もうっ、少しは気ぃ使ってよね。これで
も緊張してるんだからさー」
口を尖らせ、大翔の肩を人差し指で突く。
バイトの面接に来てるくらいの心持ちでいる
というのに、大翔はわたしの緊張なんかお構
いなしだ。お父さんに紹介したいって言った
のは、そっちじゃん。大翔のお父さんだから
よく見られたいのに。
そう思ってむくれた顔をガラスの向こうの
青空に向けた時だった。
「待たせてしまったね」
陽だまりを包むようなやさしい声がして視
線をそちらに向けると、黒いカバンを提げた
長身の男性が立っていた。大翔のお父さんだ。
わたしは慌てて、すっくと立ち上がった。
「こっ、こんにちは。増山芦香です。今日
は突然お邪魔してしまってすみません」
いまのやり取りが聞こえてたらどうしよう。
内心、ひやっとしながら頭を下げる。すると、
ふと笑った気配がした。わたしはゆっくり顔
を上げ、一目で大翔のお父さんとわかるその
人を見つめた。
「佐竹です。こちらこそ待ち合わせに遅れ
て悪かったね。ちょっと打ち合わせが長引い
てしまって」
柔らかく笑んで腰かけるよう勧めてくれる。
わたしが椅子に座ると自分も向かい側の席に
座り、カバンを隣の椅子に置いた。そして腕
を組み、テーブルに身を乗り出す。わたしは
なにを言われるのだろうと緊張し、少しだけ
肩に力を入れた。
「やっと会えた。ずっと会いたいと思って
いたから、来てくれて良かった」
瞬く間に心が軽くなる。身構える必要なん
てなかったんだ。一気に緊張が解けたわたし
は照れ笑いを浮かべつつ、テーブルを挟んで
座っているお父さんを見た。
長い前髪の奥にある瞳の黒さも、しゅっと
した顔に合う小さめの唇も、大翔と同系列の
ものだ。似てるな。この二人は間違いなく血
を分けた親子だ。数十年後の大翔を見られた
ような気がして、なんだか得した気分だった。
さりげなく二人を観察していると、わたし
の横にピンと背筋を伸ばしたウエイターがや
って来た。
「ご注文はお決まりですか?」
コロンとした薄張りグラスに注がれた水を、
お父さんの前に差し出す。メニューを広げて
ざっと目を通したお父さんは、わたしたちに
視線を投げかけた。



