名もなき空に、青い風が吹く

 そんな想いが手すりを通して伝わったのか、
二人の間に沈黙が落ちる。ガチャガチャ音を
させながら野外ステージにパイプ椅子を並べ
ている吹奏楽部の生徒を、なんとなく眺めた。

 「会いたかったけど、会いに行けなかった」

 大翔の声が、ぽつりと沈黙を破る。
 わたしはなにも言わず耳を傾けた。

 「本当は何度も芦香に会いに行こうとした。
でも俺と一緒にいるといっくんのこと思い出
して辛くなる。そう思ったら、会いに行けな
かった」

 やっぱり。その言葉に小さく頷くと大翔が
笑う。吹き出すように、笑う。

 「ごめん、嘘」

 「えっ?」

 「いまの、嘘。ホントはいっくんの気持ち
知ってて、抜け駆け出来なかっただけ」

 驚いて隣を向くと、そこにはいままで見た
こともないような複雑な顔をした大翔がいた。
わたしは言葉を失ってしまう。グランドを眺
めたままわたしを見ようとしない大翔に、胸
がざわついてしまう。

 「……あの時さ、俺、飛び込もうとしたん
だよね。でも足が竦んで動けなかった。助け
なきゃって思うのに、すぐ飛び込めなかった。
だからいっくんに『父さんたち呼んできて』
って言われた時、ほっとしたんだ。いっくん
が何とかしてくれる。芦香は大丈夫だ。そう
自分に言い聞かせて叔父さんところに走った。
まるでそれが俺の使命みたいな顔して、必死
に」

 ホント情けないよな。そう呟いた大翔の声
が揺れた気がして、心臓がつぶれそうになる。
水に飛び込めなかった大翔が悪いわけじゃな
いのに、そうできなかった自分を責めている
ことが切なすぎて息が苦しかった。

 なにか言わなきゃって思うのに言葉が見つ
からなくて、手すりを強く握りしめる。なに
を言っても大翔が傷付く気がして、口を開け
なかった。

 「いっくんは、すごいよ」

 その言葉がずしんと心に落ちる。わたしは
きゅっと唇を噛みしめて、ただ大翔の言葉を
受け止める。