「付き合って、るの?その……鷲塚さんと」
口にした直後、しまったと後悔する。
もし「付き合ってる」って言葉が返って来た
ら、わたしはなんて答えればいいんだろう?
大翔の顔を見られないまま、数秒が経過した。
文化祭の喧騒を遠くに聴きながら、わたしは
コマ送りのようなぎこちなさでカステラを口
に運ぶ。するとそれを口に入れようとした時、
大翔がふっと笑った。
「付き合ってないよ」
「ほ、ホントに?」
ゆっくり上目遣いに大翔の顔を覗く。前を
向いた大翔の横顔が、わたしの知らない顔に
見えた。
「ホントに。仲いいけど、写真部の部長と
副部長っていうだけでそういう関係じゃない」
「そっか」
あとの言葉が続かない。まだ胸の中で心臓
が暴れていて、摘まんだカステラを口に入れ
られない。
「そっか」
わたしは細く息を吐き出しながら同じ言葉
を繰り返した。そして風に触れてぬるくなっ
たカステラを、パクッと口に放り込んだ。
「俺、こうみえて一途だからさ、子どもの
頃からずっと好きな子変わってない」
突然、思いがけない言葉が鼓膜に突き刺さ
って、わたしはカステラを噴き出しそうにな
ってしまう。
「……そ、それって、誰のこと?」
慌てて両手で口を押え一生分の勇気を振り
絞って訊いたわたしに、大翔はこれでもかと
言うほど渋い顔をした。
「わかってるくせに、言わせんな」
「わっ、わかってないよ」
「うわ、性格わる」
「ひど、悪くないってば」
ムキになって言い返す。わかってるくせに
という言葉が指す意味を考えれば、恥ずかし
過ぎて死にそうになる。大翔がわたしのこと
を想ってくれているのはわかっていた。でも、
あの頃は子どもだったからそういう気持ちの
先にあるものを想像することが出来なかった。
いつも二人の真ん中にわたしがいた、って
いうのもあるけれど……。いっくんの顔が脳
裏によみがえってツキンと胸が痛む。
わたしも大翔と同じ気持ちだけど恋に浮か
れることが出来ないのは、もう一人の気持ち
を知っているからだ。そして、その人はわた
したちの傍にいないからだ。
口にした直後、しまったと後悔する。
もし「付き合ってる」って言葉が返って来た
ら、わたしはなんて答えればいいんだろう?
大翔の顔を見られないまま、数秒が経過した。
文化祭の喧騒を遠くに聴きながら、わたしは
コマ送りのようなぎこちなさでカステラを口
に運ぶ。するとそれを口に入れようとした時、
大翔がふっと笑った。
「付き合ってないよ」
「ほ、ホントに?」
ゆっくり上目遣いに大翔の顔を覗く。前を
向いた大翔の横顔が、わたしの知らない顔に
見えた。
「ホントに。仲いいけど、写真部の部長と
副部長っていうだけでそういう関係じゃない」
「そっか」
あとの言葉が続かない。まだ胸の中で心臓
が暴れていて、摘まんだカステラを口に入れ
られない。
「そっか」
わたしは細く息を吐き出しながら同じ言葉
を繰り返した。そして風に触れてぬるくなっ
たカステラを、パクッと口に放り込んだ。
「俺、こうみえて一途だからさ、子どもの
頃からずっと好きな子変わってない」
突然、思いがけない言葉が鼓膜に突き刺さ
って、わたしはカステラを噴き出しそうにな
ってしまう。
「……そ、それって、誰のこと?」
慌てて両手で口を押え一生分の勇気を振り
絞って訊いたわたしに、大翔はこれでもかと
言うほど渋い顔をした。
「わかってるくせに、言わせんな」
「わっ、わかってないよ」
「うわ、性格わる」
「ひど、悪くないってば」
ムキになって言い返す。わかってるくせに
という言葉が指す意味を考えれば、恥ずかし
過ぎて死にそうになる。大翔がわたしのこと
を想ってくれているのはわかっていた。でも、
あの頃は子どもだったからそういう気持ちの
先にあるものを想像することが出来なかった。
いつも二人の真ん中にわたしがいた、って
いうのもあるけれど……。いっくんの顔が脳
裏によみがえってツキンと胸が痛む。
わたしも大翔と同じ気持ちだけど恋に浮か
れることが出来ないのは、もう一人の気持ち
を知っているからだ。そして、その人はわた
したちの傍にいないからだ。



