名もなき空に、青い風が吹く

 「もしかして……増山、さん?」

 よかった。覚えててくれた。一週間足らず
で忘れられることはないだろうけど、と思い
つつ、わたしは偶然を装って驚いた顔をする。

 「やっぱ、鷲塚さんだよね?制服着てるか
らちょっと雰囲気違って見えて、声かけよう
か迷っちゃった。こんなところで会うなんて、
奇遇だね」

 「ホント、世間って狭いね。わたしも一瞬、
迷っちゃった。もしかしたら似てるけど別人
かもって」

 「わかる。まさかって思うよねぇ」

 二人で再会の笑みを交わしていると、大翔
が割り込んでくる。

 「なに、二人とも知り合い?」

 わたしと鷲塚さんの顔を交互に見てキョト
ンとしている大翔に、内心、こいつ役者だな、
と感心しながら、わたしは鷲塚さんの横に並
んだ。

 「実はこの間、救命講習に参加したんだけ
ど、そこでたまたま一緒に実技訓練やること
になって仲良くなったの」

 「へぇ」

 大翔が頷く。手を握ってちょっと強引に連
絡先を交換したことまで知ってるくせに、初
めて聞いた顔をして話に乗って来る。

 「鷲塚さんはともかく、芦香が救命講習っ
ていうのは、あんまピンと来ないな。助けに
来てくれても不安で心臓止まりそう」

 「なにそれ、めっちゃムカつくんだけど!」

 本心で言ってるっぽい大翔に頬を膨らませ
る。人の気も知らないで、と思えば心がザラ
つく。やり取りを見ていた鷲塚さんはわたし
たちのことを訊いてきた。

 「仲いいね。二人はなに繋がり?」

 その質問にわたしと大翔は互いの顔を覗く。
わたしたちは、いとこのいとこ。血の繋がり
があるわけでも、六親等に入るわけでもない、
赤の他人だ。こういう場合、なんて答えれば
いいんだろう?そんな風に考えを巡らせてい
ると、大翔が口を開いた。

 「幼なじみ。俺たち共通のいとこで繋がっ
ててさ、兄弟みたいにいつも一緒にいたんだ」

 「そうなんだ。なんかいいね、そういうの。
幼なじみって呼べる相手いないから、憧れる」

 幼なじみ、兄弟。そこから恋人という関係
に発展しないイメージを持ってるわたしの胸
が、チクッと痛みを訴える。別に期待してた
わけじゃないけど。自分にそう言い聞かせて
いた時、鷲塚さんの声が鼓膜を揺らした。