名もなき空に、青い風が吹く

 真っ白な入道雲も黄色い花びらも、抜ける
ような青空にも、たくさんの人の笑顔が散り
ばめられていた。黄色い帽子をかぶった男の
子やサングラスを掛けたおじさん、青い花束
を持ったお婆ちゃんに、草原を散歩している
柴犬。ひとりひとりの息づかいがそこにあっ
て、見ているだけで頬が緩んでしまった。

 みんなの笑顔や自然の風景で描かれたひま
わりはそれがひとつの命のようで眩しいのに、
胸の奥に寂しさのカケラが残る。

 どうして夏にしか輝けない花は、こんなに
儚く目に映るのだろう。そんなことを思いな
がら写真を眺めていたわたしは、ふとテント
ウ虫のところで足を止めた。

 「あ、大翔だ」

 もしかしたらいるかな?と思ってじっくり
見ていたら大翔の顔があって、わたしは目を
輝かせる。赤いシャツを着てあどけない笑顔
を向けている大翔は、一緒に遊んでいた頃の
面影そのままだった。

 「よく見つけたじゃん」

 パネルを見つめたまま大翔の隣に戻ると、
難易度の高いクイズを当てた子どもを褒める
ように小さく拍手をする。

 「最初からいるって言ってくれれば、すぐ
に見つけられたけどね」

 どや顔でそう言った時だった。教室の入り
口の方から声がして、拍手をする手がピタッ
と止まった。

 「お疲れさま、大翔。差し入れ買ってきた
よ」

 鷲塚さんだ。顔を見合わせ二人でゆっくり
振り返る。廊下の窓から差し込む光で逆光に
なってよく見えなかったけれど、長い髪を掻
き上げるしぐさと張りのある声で鷲塚さんだ
とわかった。ビニール袋を手に彼女が教室に
入ってくる。わたしは、いまか、いまか、と
鷲塚さんが反応する瞬間を待った。

 「さんきゅ。どこ回って来たの?ってゆー
か、時間ちょっと早くない?」

 「グランドの出店と参加型のクラスは結構
回って来た。三年の謎解き脱出ゲームが盛り
上がってたよ。はい、これ、ベビーカステラ」

 差し出されたビニール袋を大翔が受け取る。
鷲塚さんはまだ隣に立っているわたしに目を
向けない。気付かない。どうしよう、こっち
から声かけちゃおっかな。

 そう思ってごくりと喉を鳴らしたわたしに、
大翔がなにげなく視線を向ける。その視線を
ごく自然に辿った鷲塚さんは、静かに目を見
開き、口に手を当てた。