名もなき空に、青い風が吹く

 あれ、大翔、どこにいるんだろう?

 バタバタと廊下を駆け抜ける足音を背中で
聞きながら人影のない教室に足を踏み入れる
と、教室の隅、ドアの影から愛想のない声が
聞こえた。

 「いらっしゃい。遅かったじゃん」

 ひっ、と息をのむ。声のした方を向くと受
付らしき机に座っている大翔がわたしを見上
げている。

 「もう、驚かさないでよっ」

 顔を見た途端、緊張が解けていつものよう
に言葉を返すと、大翔は白い歯を見せて立ち
上がった。

 「迎えに行けなくて、ごめん」

 「ホントだよ。校門で待ち合わせしようっ
て言ってたのに」

 「突然、受付の順番変わって欲しいって言
われてさ。写真部、八人しかいないから他に
変われるヤツいなかったんだよね」

 言いながら教室の中を歩き出した大翔につ
いて行く。ここは文化祭の会場なのかな?と
不安になるくらい静かで、けれどどこか日常
から切り離されたような、不思議な安堵感に
包まれている教室の最奥に歩いて行く。

 すると、目の前に一メートル四方の大きな
パネルがあった。

 「これ、なに?」

 無数の小さな写真が切り貼りされた、色が
ひしめき合っているような作品に首を傾げる。
大翔は得意そうに笑みを浮かべると、わたし
の腕を掴みゆっくりと後ろへ下がった。一歩、
二歩、三歩、と、腕を引かれるまま下がって
行くと、次第にパネルに描かれたものが鮮明
になる。教室の真ん中辺りまで下がったわた
しは目を見開き、声を上げた。

 「わぁ、すごい!」

 近くで見た時は小さな写真の寄せ集めにし
か見えなかったそれが、一輪の黄色いひまわ
りに変わる。もくもくした入道雲を背景に凛
と空へ向かって伸びるひまわりは生命力があ
って、目を凝らすと葉っぱに赤いテントウ虫
が止まっていた。

 「こんなの初めて見た。これ、大翔が作っ
たの?」

 「あたり前だろ。フォトモザイクアートっ
ていうんだけど、二センチくらいのちっさな
写真を四千枚使って手作業で貼り合わせてる。
部員全員でデザインから考えた、大作なんだ。
文化祭までにこれを完成させるのが大変でさ、
この間も遅くなった」

 カフェに遅れて来た時のことを言っている
のだろう。誇らしげに腕を組んでいる大翔に、
わたしは「そっか」と笑みを返す。もう一度
ロッカーに立て掛けてあるパネルに近づくと、
どんな写真がどこに使われているのか確かめ
てみた。