名もなき空に、青い風が吹く

 「そろそろ行こうか」

 「ん、そうだね」

 滲んでしまった涙を指で拭って顔を上げる。
公園に来る途中買った花束が、陽射しを浴び
て白く輝いている。今日は二人で伯母さんに
会いに行くのだ。

――お父さんとお母さんをよろしく。

 という、たったひとつの幼なじみの願いを
叶えるために。

 「持とうか?」

 「いいの?結構重いよ」

 「花くらい持てるって」

 三日前、退院したばかりの大翔が得意げに
言って花束を抱える。透明のセロファンに包
まれたトルコキキョウやバラの花束は、凛と
した華やかさがあって、わたしよりも花が似
合っている大翔をじっと見つめてしまう。

 「なんか似合うね。様になってるよ」

 「なにそれ」

 「王子様っぽい」

 「わけわかんないんだけど」

 肩を竦めると、大翔はくるりと背を向けて
すたすた歩き始める。そのあとに続こうとし
たわたしは、耳に飛び込んできた声にピタリ
と足を止めた。

 「いっくん、おいでー!!」

 わずかに目を見開く。振り返ってターザン
ロープに目を向ければ、小学一、二年の男の
子がロープをにぎったまま、スタートデッキ
に突っ立っている。

 「いちや、恐くないって。早く行けよ!!」

 後ろから別の男の子が怯えているその子を
勇気づけている。わたしは大きく息を吸い込
み、頬を緩めた。

 降り注ぐ陽射しをさえぎるように、空に手
をかざす。かざした指の隙間に、名もなき空
が広がっている。悲しみがやさしい温もりに
変わり、心に青い風が吹く――。

 「芦香」

 振り返ると、大翔が手を差し伸べていた。
わたしは小さく頷くと、そこから一歩を踏み
出した。



                 =完=


***この物語を読了くださいまして、誠に
ありがとうございます。読者様とご縁をいた
だけましたこと、心より感謝いたします。
            橘 弥久莉***