お嬢様の代わりに冷徹王子に嫁ぎます

馬車を降りて、コーラン様に案内されるがまま城内へと入っていく。
廊下は広く、上を見上げれば高い位置に等間隔にならべられたステンドグラスが美しい。光が良く入り、明るい城内に思わず感嘆の声が漏れた。

「こちらが謁見の間です。中で王子がお待ちですよ」

しばらく歩くと、2メートルはあるかという大きな両開きの重厚感ある扉の前に着いた。コーラン様はその扉をゆっくりとノックする。重い音と共に、中から低い声で「入れ」と指示があった。

今の王子様の声?

一気に緊張が高まる。
右手につけた母の形見の指輪を何度も撫でて、心を落ち着かせようとした。

ジュアナお嬢様として振舞わなければ……。私はジュアナ。ジュアナよ。

粗相がないように。お嬢様らしく。何度も心に言い聞かせ、顔を上げる。
重厚な扉がギギギと開かれると、床に敷かれた赤い絨毯が先に延びていた。その先を辿ると、50メートルほど先に3段程度の階段があった。そこを上がった先に、大きないすが置かれている。

そこにどっしりと座るのは一人の男性。椅子の後ろにあるステンドグラスのせいで逆光になり、顔はよく見えなかった。しかし、その堂々とした雰囲気だけはよくわかる。

あのお方が……?

私は無意識にゴクリと唾を飲み込んだ。
コーラン様に促され、絨毯の上を歩きながら先へと進む。ストップをかけられ、立ち止まると膝をついて一礼をした。椅子に座る人物の顔はまだ見ていない。

「お前がジュアナ・ラニマールか?」

低く少し甘めで耳障りのいい声が頭から降り注ぐ。感情が見えない抑揚のない声は、一層私の緊張を煽った。

「はい。ジュアナと申します」

震える声でなんとか返事を返す。

「顔を上げろ」

そう言われてドキッとする。
顔を上げて、バレてしまわないか。いや、トークハットのレースで顔はよく見えないはず……。あぁ、でもステンドグラスからの光で良く見えてしまうかもしれない。
迷いが出て、顔を上げるのが遅れた。それを王子は不審に思ったらしい。

「どうした。俺に顔は見せられないか?」
「と、とんでもございません」

言葉は淡々としているが、怒らせてしまったかもしれないと慌てて顔を上げる。私はそこでハッと息を飲む。

なんて……、綺麗な人だろう……。

目の前の玉座に座っていたのは、端正で整った顔立ちの美しい男性だった。キリッとした眉毛に二重の切れ長な瞳、鼻筋はスッと通って高く、唇は赤く艶やかだ。

男性よね……?

顔だけ見れば男っぽい女性にも見えなくはない。しかし、太い首に鍛え上げられた体躯は彼を男性だと示していた。