お嬢様の代わりに冷徹王子に嫁ぎます

「無理です! バレてしまうに決まっています!」

私はそう叫んだが、旦那様には聞く耳は一切持ってもらえなかった。
旦那様は私にお嬢様の身代わりになって嫁げと言っているのだ。

「黙れ! お前がジュアナの代わりに嫁ぐしか方法はないんだ! 王子の前ではいつも帽子を被るなり、俯くなりして顔を隠すようにしろ!」
「そんな無茶な……!」
「この家のためなんだ! 言うことを聞かないと、今すぐここから追い出すぞ!! 手を回してまともに働けないようにしてやる!! 娼館に売るからな! お前の人生なんてどうでもできるんだ!」

旦那様は鬼のような形相で私にそう吐き捨てた。

娼館!? あんまりだわ!

嫁いで失敗しても追い出されるのに、拒否したらクビにされ、娼館に売られるだなんて……。そんなの酷すぎる。しかし、侯爵家の称号をもつ旦那様ならやりかねない。いや、本当に使用人一人ぐらいの人生なんて簡単にどうでもできるだろう。

どのみち私には先がない……。

青い顔で旦那様を見つめるが、もう決定事項なのか何を訴えても無駄だと悟る。有無を言わさない圧力をひしひしと感じた。
周囲を見渡しても誰一人助けようとはしない。奥様に至っては苦虫をつぶしたような嫌悪感に満ちた目で私を睨むだけだ。

「わ、私にお嬢様の身代わりなどできません……」
「黙れ! お前の荷物は後で送る。お前はこれからジュアナとして生きていくんだ。決して素性がバレてはならない! いいな!」
「……」
「返事は!?」
「はい……」

頷くしかなかった。
もう、エルマとしては生きていけないのか……。どうしてこんなことに……。

私は泣きたい気持ちでいっぱいだった。しかし、旦那様は私の背中を軽くはたいて、冷たい眼差しで私を見下ろした。
ちょうど、お屋敷の門の前には、王宮からの使者様の馬車が横付けされるところだったのだ。

失敗は許さないという顔だわ……。抵抗しても無駄なのね……。

私はギュッと拳を握る。覚悟を決めるしかなかった。少しでも長く生きるためにはこれしかないのだ。

もう私はジュアナだ。ジュアナ・ラニマール。エルマ・ハンソンは私の使用人。お嬢様らしくしないといけない……。

私はジュアナだと何度も言い聞かせ、背筋を伸ばす。震える手はそっと握って隠した。

使者様は馬車から降りると、私たちの前にゆっくりと歩いてきた。その間も使者様は私から視線を外さない。穏やかな視線なのに、まるで私を見定めるかのようだ。

「王宮使者としてまいりました。コーランと申します。ラニマール殿。これを」

コーランと名乗った使者様から旦那様に手紙が渡された。どうやらそこには、正式な王宮からの迎えである旨の内容が書かれているようだった。そしてコーラン様は旦那様から私に視線を向けた。

「ジュアナ様……ですね?」
「はい……。よろしくお願いいたします」

私は小さな声で呟くと、ドレスの裾をつまんでそっと礼をした。
貴族のマナーは幼いころからお嬢様が学ぶ横でお付としてじっと見てきた。実際使ったことはないが、思い出して真似することはできる。お嬢様は勉強の出来がいまいちだったから、何度も教師に繰り返し教わっていた。それが私には功をなしたと言える。