お嬢様の代わりに冷徹王子に嫁ぎます

部屋で待機を言い渡されてから3日。
何も進展はなく、ただ部屋に閉じ籠もる毎日。

この日もいつものように夕飯が片付けられ、いつものように風呂も終えた。また生き延びられた。眠る前にホッと胸を撫でおろす。
安堵とまだ続いていく不安を抱えながらベッドに入るのだ。

「おやすみなさい」

指輪を胸にあて、小さな声で呟く。

といっても、そう簡単には眠れないのだけど…。

そっと目だけを閉じたとき、部屋がノックされた。食事が運ばれる時間以外で、誰かの訪問など初めてだ。聞き間違い? そっとベッドから降りて部屋の扉の方を見つめる。ノックは再びされた。

「…誰?」

声がかすれる。聞かなくても思った。

ついに……その時がきたのだと。あぁ、どうしよう……。

心臓が激しくなりだす。

怖い…。とうとう最期の時がやってきたのだ。

扉を開けたら衛兵がぞろりといて、私を処刑台へと連れて行くのだろう。夜に処刑するのは、私が罪人だからか。それとも、誰にも知られずにひっそりと葬るためか。

どのみち、死神が私を連れて行くには丁度よい時間なのだ。

私が身を固くしていると、もう一度部屋の扉がノックされた。

「はい……」

震える手で、意を決して扉を開けた。

「え…?」

そこに立っていた人物に、私は目を丸くして立ち尽くす。

「なんで……?」

直々に迎えに来たというの?
それにしては、衛兵や裁判官など他の家臣らが見当たらない。

「そんなに驚くことか?」

ユアン王子は苦笑しながら、スルリと猫のように身体をよじって部屋の中へと入ってきた。思わず離れようと後ずさる私の腕を素早く掴んでくる。咄嗟にその手を放そうとしたが、がっちりと握られ離してはくれない。

「なぜ、ユアン王子が? 他の人達はどうしたのですか?」
「他の人達?」
「私を……処刑台へ連れに来たのでしょう?」

自分で言葉にするのも恐ろしいほどの言葉を絞り出す。体が震える。ユアン王子に触れてほしくないのに、掴んだ腕を離してくれないから、私の震えは伝わっているのだろう。

ひとりで何しに来たの?

ひとりで逝く覚悟がついていたのに、こうして顔を見たらその決心が揺らぐ。会いたかったけど会いたくなかった。最後のお別れなんて、改めてしたくはない。

涙をこらえるために唇を噛んだ。目を逸らして顔を見ないようにする。

「こんな所にいてはなりません。早くジュアナお嬢様の元へお戻り下さい」
「ジュアナ……ねぇ……」

呟くその声は低い。顔を見るのが怖くて俯いているため、ユアン王子がどんな顔で呟いたのかはわからない。

でも、ジュアナを妃として迎え入れるなら、こうして罪人である私と会うのは問題だろう。

「出ていってください。私になどと会ってはなりません」
「なぜ?」
「当然でしょう? 私は処刑される身なのですから」
「なぜ?」
「なぜって……」

思わず顔をあげて、首を傾げるユアン王子に目を丸くする。

何を言っているの? あぁ、わざと私に罪を言わせようとしている? なんて意地悪なのかしら。

しかしユアン王子の表情はいつも通りだ。冷徹などではなく、私を見つめる穏やかな瞳。
そんな目を向けないで。死ぬのが惜しくなってしまう。

耐えきれなくなった涙が頬を伝う。

「私が身分を偽ったからです」

声を絞り出すと、ユアン王子は私の頭上でクスッと笑いを漏らした。

「お前は身分を偽ってなどいないよ」

平然と言い放つユアン王子に、私は言葉をすぐには返せなかった。