お嬢様の代わりに冷徹王子に嫁ぎます

話すきっかけを与えたのは、あのキスだろうか? 本心は嫌だったのか? だから俺の側にこれ以上いられないと思ったのか? ……悪いが、だとしても俺もお前を手放すことはできない。

驚きもしないで淡々としている俺にエルマは眉を顰める。

「まさか、私が本物のジュアナお嬢様でないとお気づきだったんですか……?」

青ざめながらそう聞くが、ここはシラを切るしかない。だから俺は曖昧に「さぁ、どうかな」と呟いた。
それに悲しそうに顔を歪める。
そんな顔をさせたいわけではない。でも、まずは先に本物のジュアナの方を何とかするしかないのだ。しかも今はコーラン以外の衛兵らがこの状況を見ている。

俺は今、王子として場を治めなければならないのだ。

そしてフゥと一息つくと、凛とした声でコーランに指示を出した。

「コーラン、とりあえずその訪れたジュアナに面通りするぞ。本物かどうかの調べは早急に。こちらのジュアナは部屋で待機していてもらおう。念のため、逃げ出さないように警備を厚くしてくれ」
「承知いたしました」

表が騒がしくなってきた。本物のジュアナが来たことが騒ぎになっているのかもしれない。今はエルマに外に出ない様に部屋で待機させ、守る事しかできなかった。

もし俺が側にいない間になにかあっては困るからな。それにこのやりとりを誰がどこで聞き耳を立てているかわからない。
エルマはどうやってでも手に入れる。だからこそ、後から名乗り出た本物のジュアナを始末しなくてはいけないだろう。

心の中で冷たいことを考えてていたため、声色が冷徹と言われる時の声に近くなってしまった。

ジュアナはますます青ざめるが、ギュッと目を瞑ると覚悟を決めた等に顔を上げた。そして部屋へと促すコーランに頷き、衛兵らに囲まれると一度だけ俺を振り返った。そして泣きそうな今にも崩れてしまいそうな笑顔を見せて言ったのだ。

「ずっと騙して申し訳ありませんでした。ユアン王子……どうか……どうかお幸せに……」

それだけ言うと、ほぼ逃げるようにテラスを出て部屋に戻っていく。コーランが何か言いたげな顔をしていたが、俺は「行け」と目で促した。

「クソッ」

テラスに一人残された俺は思わず机をダンッと強く叩く。

「ジュアナめ……。どうして今になって……」

男と逃げたやつがノコノコと今になって王宮にやってくるとは……。そもそも身代わりを立てただけで不敬に処したいところなのに、どの面下げてやってくるんだ。

きっと今の俺はコーラン以外のものが見たら青ざめるほど冷たい顔をしているのだろう。まさに、戦場で見せた冷徹の王子の名にふさわしいほどに。それくらい今の俺ははらわたが煮えくり返っていた。

それに……さっきの言葉。
まるでもう俺とは二度と会えないと覚悟をしているかのようだ。まるで別れの言葉かのような。

「そんなことにはさせない」

俺はギュッとこぶしを握って低く呟いた。