お嬢様の代わりに冷徹王子に嫁ぎます

やはり来たか……。

俺は意外と冷静にその状況を眺めていた。

エルマとランチをしようとした時、衛兵が慌てて来て本物のジュアナを名乗る奴が現れたと報告があった。

まぁ城に来るだろうなとは思っていたが、思ったよりも早かったな。

実は一昨日、別邸に着いてエルマと甘いひと時を過ごそうとした時に、コーランから気になることがあると呼び出された。
せっかくのいい雰囲気がぶち壊しだったのはいまだに根に持っている。

その時の内容が、「別邸の前で一人の女性が中を覗いていた。それがジュアナにそっくりだった」ということだった。
すぐにピンと来たよ、あぁ本物のジュアナが来たのだと。

密偵に調べさせたところ、本物のジュアナが、俺たちの馬車が街を通り過ぎるときに中に乗っていたエルマを見かけていたらしいということ。
そこから追いかけてきた……? そもそも男と逃げたはずのジュアナが何故この街に戻ってきているのか……?

まぁ、いい。そこは本人が話してくれるだろうが……。

俺はチラッとエルマを見る。真っ青な顔で小さく震えていた。

あぁ、出来ることならすぐに抱き締めたいがそういうわけにはいかない。これからどうするか……。相手の出方によっては少しばかり策を練らねばならん。

「そうか…。わかった、ご苦労」

俺は抑揚のない声でそう衛兵に伝えると、下がるように言った。

とりあえず、この事態を議会に持ち上げるわけにはいかない。内密に処理できればいいが、それを許す相手だろうか? すでに衛兵がざわついているとしたら厄介だ。

エルマは小さく震えたままだ。その体をじっと見つめてから、エルマの話を聞きそびれたことに気が付いた。

「それで? お前の話とは何だ?」

まるで今のことはなかったかのように続きを促すと、エルマは目を丸くして顔を上げた。俺の反応が意外といった顔だ。

「……どうして落ち着いていられるのですか」

小さい声は震えている。

まぁ、遅かれ早かれこういうことは起きるだろうと思っていたから驚いていないだけなんだが。そうは言えないしな。  
エルマには驚きしかないのだろう。

「どうしてとは?」
「今、本物のジュアナだと名乗る者が来たと衛兵から話がありましたよね? どうして、私にどういうことかと問い詰めないんですか? 驚かれないんですか? 身分証を携帯していたのなら、本物のジュアナお嬢様だということです!」

興奮気味にそう捲し立てるエルマにピンときた。

エルマはきっと、自分がジュアナではないと打ち明けるつもりだったのだろうと。もう、隠していても無駄だと悟ったのか。
それとも、もう精神的に黙っているのが耐えられなくなったか……? 

「だろうな」
「っ……、私の話は……、本物のジュアナではないとお伝えすることでした。私は身代わりです。騙して申し訳ありません……。どんな処罰も受ける覚悟をしています」
「そうか……」

そこまで覚悟をしていたのか。
エルマはずっといつかはこうなる日を予測していたのかもしれない。いや、いつかは話さないといけないと思っていたのだろう。
真面目な彼女らしい。