お嬢様の代わりに冷徹王子に嫁ぎます

「失礼致します! ユアン王子様! 至急お知らせしたいことがあり参りました!」

衛兵の一人が青ざめた顔でテラスへ駆けこんできた。奥で控えていたコーラン様がサッと前に出て厳しい顔で「何事か」と問いただす。

事前にコーラン様を通さず、直接伝えに来るということはよほど慌てていたのだろう。衛兵は一瞬私に視線を送った後、戸惑ったように話し出した。

「お、恐れながら申し上げます。今、城門にて自分こそがジュアナ・ラニマールだと申すものが来ております。正式な身分証明書も携帯しており…その…身分的には間違いないのかと現在調査中です」

衛兵の言葉に私の顔色が失われる。

ジュアナお嬢様!

まさか、私が真実を話す前に本物のジュアナが王城を訪ねてきたなんて……。

どういうこと? ジュアナお嬢様が名乗り出たなんて。あんなに冷徹な王子の花嫁にはなりたくないと逃げたのに……。
なんで今更、ここに名乗り出てきたの……?

震える手をギュッと握りしめる。

「そうか…。わかった、ご苦労」

ユアン王子は抑揚のない声でそう衛兵に伝えると下がるように言った。
重い沈黙が下りる。顔をあげられない私の頭に視線が降り注がれるのを感じた。

「それで? お前の話とは何だ?」

まるで今のことはなかったかのように続きを促すユアン王子に目を丸くして顔を上げた。目の前のユアン王子は驚きも動揺もせずに平然としている。

なんで……。

「……どうして落ち着いていられるのですか」
「どうしてとは?」
「い、今……、本物のジュアナだと名乗る者が来たと衛兵から話がありましたよね? どうして私にどういうことかと問い詰めないんですか? 驚かれないんですか? お前は何者だって……! 身分証を携帯していたのなら、彼女が本物のジュアナお嬢様だということですよ!?」

咳を切ったように私は言葉を並べる。本物が来たならもう隠せるものではないからだ。
震える手をギュッと抑えるが隠せそうにない。しかし、目の前のユアン王子の表情は変わりなく私を見つめる。
穏やかな瞳のままだ。

「だろうな」
「っ……、私の話は……、本物のジュアナではないとお伝えすることでした。私は身代わりです。どんな処罰も受ける覚悟をしています」
「そうか……」

ユアン王子は淡々と私の言葉に相槌を返す。私はただその反応に戸惑いを隠せないでいた。

もっと驚くかと思っていた。もっと激昂するかと思っていた。なのにどうしてそんなに平然としているのだろう。まさか……。

「私が本物のジュアナお嬢様でないとお気づきだったんですか……?」

青ざめてそう聞くと、ユアン王子は「さぁ、どうかな」と呟いた。そしてフゥと一息ついて、軽く目を閉じた。そして次の瞬間には、先ほどまでの穏やかな瞳を消して、側にいたコーラン様に指示を出す。

「コーラン、とりあえずその訪れたジュアナに面通りするぞ。本物かどうかの調べは早急に。こちらのジュアナは部屋で待機していてもらおう。念のため、逃げ出さないように警備を厚くしてくれ」
「承知いたしました」

凛とした声のユアン王子はどこか冷徹の王子を滲ませる。

ああ、そうよ、それがユアン王子。冷徹で無慈悲な……噂の王子。警備を厚くしなくても大人しくしているけれど、それを言ったところで信じてもらえないだろう。

衛兵が二人やってきて私のことを取り囲む。

もしかしたらこうしてユアン王子と会えるのも最後かもしれない。私はきっとこのまま処罰を言い渡され、処刑されるのだろう。
だとしたら、最期にただ一言だけユアン王子に伝えたいことがあった。

私はユアン王子を振り返ると、深々と頭を下げた。

「ずっと騙して申し訳ありませんでした。ユアン王子……どうか……どうかお幸せに……」

声が震えそうになるのを我慢しながら私は小さく微笑むと、ユアン王子に最後の言葉を伝えた。

ユアン王子はただ黙って私の顔を見つめただけだった。