お嬢様の代わりに冷徹王子に嫁ぎます

以前、国王陛下に面会をした時、陛下はユアン王子に《出来損ないの女の息子》と罵ったのだ。

あれはどういう意味だったのだろう。

「女王陛下はどうしてそこまで厳しくされたのでしょう?」

相当と、ユアン王子は一瞬言葉に詰まりながらも苦笑しながら話してくれた。

「母上は男爵家の娘で地位も低かったんだ。父親が遊びで手を付けたが俺という子供ができた為、本来父親には侯爵家の娘という婚約者がいたが、それを破棄して母上と結婚した。母上は自分が劣っているという劣等感から、俺には厳しくなったようだ」

男爵家の……。なるほど、それであの国王陛下の言葉か……。
私からしたら男爵家も貴族ではあるが、貴族社会の中では末端。王族に嫁げる身分ではなかったのだろう。

そう思うと、私などただの平民なのだが。

「母上は俺にすら笑いかけたことはない。常に叱責され、厳しく育てられた。甘えたこともない。唯一、心を許せるのはコーランだけだった。素を見せられるのも」

なるほど、コーラン様と親しいのもうなずける。

「あの……、それが今になってどうして?」

どうして突然、こんな話をするようになったのだろう? 今までのユアン王子なら絶対にこんな話をしなかっただろう。どうして突然?

その疑問が頭から離れない。呟くように聞くと、ユアン王子が振り返る。

「お前に出会ってから……」
「私ですか?」
「お前に優しくしたいと思ったし、笑顔にしたいと思った。甘やかしたいし、喜んでもらいたい。こんな気持ちを持ったのは初めてだった」
「え……」

穏やかで、かつ熱のこもった視線から目が離せない。

「お前を取り巻く環境が少しでも良くなるなら、俺は呪いから目を背け、使用人にも他者にも冷徹の仮面を外すことができる」
「今日一日でそれを感じていたんですか?」

そう問いかけると、ユアン王子は少し照れたように微笑んだ。

「前からコーランには呪いから解放されるよう言われていたんだ。もう縛り付けるものはないと。でもいまさらと思っていたし、恥ずかしさもあってできなかった。冷徹と呼ばれた方が都合も良かったしな。でも、お前がいるとその気持ちがなくなっていくんだ」

ユアン王子の正直な心を打ち明けられて、私は切なさと胸の苦しさで泣きそうになった。
嬉しい。凄く嬉しかった。こんなに大切な話をして、私を想って変わろうと努力してくれている……。

「使い分ければいいのです。ユアン王子が本当に信頼できる者の前だけ仮面を外せばいい。冷徹の王子はあなたを守る鎧でもあるのですから」

あなたを守るものが必要だ。冷徹であることは決して悪いことではない。
そう話すと、ユアン王子はジッと私の目を見つめ、「そのとおりだな」と呟いた。

そして私の手をそっと握る。その熱さにハッとした。
戸惑いながら顔をあげると、ユアン王子は真っすぐに私を見つめている。

「俺はそんなお前が好きだ」
「ユアン王子……!」

もしかしてと思っていた。
今までの言葉から、王子はもしかしたら私を……と。でも、素直に言葉にされるとこんなにも胸に響いて来る。

グッと胸が詰まって、小さく唇を噛んだ。

あぁ、神様。どうしたらいいでしょうか。私もこのお方がとても好きです。私を好きだと言ってくれたことが涙が出そうに嬉しくてたまりません。
黙っていられるのならば、このまま正体を明かさずに黙っていたい。でも……。

ユアン王子が好きなのは「ジュアナお嬢様」だ。私「エルマ」ではない。

それなのに……。

そっと大きくて温かな手が頬に触れた。ゆっくりとユアン王子の顔が近づく。本当はその胸を押して拒否をするべきだろう。私はジュアナではありませんと言うべきだろう。
わかっている。わかっているけれど、体が受け入れたいと願っている。

ユアン王子の唇が私のそれに触れた瞬間、頬に一筋の涙がこぼれた。