嬉しい。もし、私のために作ってくれたのだとしたら、こんなに嬉しいことはない。
ユアン王子をチラッと振り返る。私の視線に気が付くと目を和らげた。
あぁ、どうしよう。ドキドキと心臓がうるさい。この感じに覚えがある。でも、ずっと目をそらしてきた痛みとうずきだ。
エルマ、わかっているでしょう? 私はジュアナお嬢様の代わり。本気で王子様を好きになってはいけない立場。もし正体がバレたら、処刑される身なのだから、本気になっても辛いだけなのかもしれない。
でも……。
この胸のときめきをどうにも止めることは出来なかった。
その夜。
入浴を済ませてリリーが下がると、部屋の扉が叩かれる音がした。
「はい。リリーさん? 忘れものですか?」
そう言いながら扉を開けると、そこにはユアン王子が立っていた。
「ユアン王子……」
「少しいいか?」
「はい……」
夜の訪問に胸がどきんとなる。コーラン様はあんなことを言っていたけれど、実際こうしてユアン王子は部屋を訪問してきた。
その意味が分からぬほど、私は子供ではない。
どうしよう……。
夕飯時とは違う胸の苦しさが押し寄せる。緊張、怖い、不安……。もしも押し倒されてそう言う雰囲気になったら……。
私は本当のことを言わねばならない。だって、王室に貴族ではない血が混じるわけにはいかないでしょう?
戸惑いながらもユアン王子をソファーに座らせ、ミニキッチンで紅茶を入れる。
「ユアン王子ほど上手ではありませんが」
そう言いながら出す私の手は微かに震えていたかもしれない。ユアン王子はその手をじっと見つめていた。
「いや、とてもうまいよ。良く手慣れているな」
「えぇ、まぁ……」
ずっと使用人としてジュアナお嬢様に紅茶を入れていた。慣れているのは当然である。
どのタイミングで打ち明けようか。そこを間違ってはいけない。いや……、間違ったとしても辿る末路は一緒か。
私が俯いていると、ユアン王子の視線を感じた。
「どうした? 何かあったか?」
「あ、いえ……」
これから起こること、それを想像して恐怖感が襲ってきている。ユアン王子は穏やかだというのに、私一人が青い顔をしているに違いない。
「ユアン王子がいつもと違うので戸惑っているだけです」
誤魔化すようにそう言うと、ユアン王子は苦笑した。
「そう見えるだろうな。さっきも、コーランから使用人室では俺の話で大盛り上がりだったと報告が来た。明日は槍が降るのではないかと」
「当然です。今まで冷徹の王子と呼ばれていたお方の、笑顔や柔らかい雰囲気を感じているのですから」
「まぁな」
ユアン王子は困ったような笑みを浮かべたままだ。きっと今までもこんな風な表情を見せることはそうなかったのかもしれない。
「俺はずっと呪いにかかったままだったから」
「呪い?」
「王子たるもの、国民には舐められたところを見せてはいけない。隙を見せたら王族としての気品が劣る。笑顔なんてもっての他だし、いつでも他者を切れる冷徹さを持ち合わせなければならない。そう教え込まれてきた」
そう話しながら遠くを見つめるユアン王子の目線が鋭くなる。何かを思い出しているのかもしれない。
「少しでも使用人と親しくしていると叱責が飛んだ。王子らしく振舞え、舐められるな、他者にも自分にも厳しくあれ。笑顔など絶対に見せるなと言われて、黙って従って来たんだ。その時の習慣や刷り込みが俺に染みついている」
「……それは国王陛下からの教えですか?」
ユアン王子は軽く話しているが、想像するとかなり縛り付けられた幼少期だったのだろう。
全てを敵のように感じ、本当の自分を見せられない。孤独だったのかもしれない。そしてそのまま育ち、冷徹の王子と呼ばれ人に心を開けなくなった。
「いや……。母親だ」
「女王陛下……」
今は亡き女王陛下は、国民は滅多にその姿を見たことがない。ただ、国王陛下をしのぐほど冷たく無慈悲だったと聞いたことがある。
そしてふと思い出した。
ユアン王子をチラッと振り返る。私の視線に気が付くと目を和らげた。
あぁ、どうしよう。ドキドキと心臓がうるさい。この感じに覚えがある。でも、ずっと目をそらしてきた痛みとうずきだ。
エルマ、わかっているでしょう? 私はジュアナお嬢様の代わり。本気で王子様を好きになってはいけない立場。もし正体がバレたら、処刑される身なのだから、本気になっても辛いだけなのかもしれない。
でも……。
この胸のときめきをどうにも止めることは出来なかった。
その夜。
入浴を済ませてリリーが下がると、部屋の扉が叩かれる音がした。
「はい。リリーさん? 忘れものですか?」
そう言いながら扉を開けると、そこにはユアン王子が立っていた。
「ユアン王子……」
「少しいいか?」
「はい……」
夜の訪問に胸がどきんとなる。コーラン様はあんなことを言っていたけれど、実際こうしてユアン王子は部屋を訪問してきた。
その意味が分からぬほど、私は子供ではない。
どうしよう……。
夕飯時とは違う胸の苦しさが押し寄せる。緊張、怖い、不安……。もしも押し倒されてそう言う雰囲気になったら……。
私は本当のことを言わねばならない。だって、王室に貴族ではない血が混じるわけにはいかないでしょう?
戸惑いながらもユアン王子をソファーに座らせ、ミニキッチンで紅茶を入れる。
「ユアン王子ほど上手ではありませんが」
そう言いながら出す私の手は微かに震えていたかもしれない。ユアン王子はその手をじっと見つめていた。
「いや、とてもうまいよ。良く手慣れているな」
「えぇ、まぁ……」
ずっと使用人としてジュアナお嬢様に紅茶を入れていた。慣れているのは当然である。
どのタイミングで打ち明けようか。そこを間違ってはいけない。いや……、間違ったとしても辿る末路は一緒か。
私が俯いていると、ユアン王子の視線を感じた。
「どうした? 何かあったか?」
「あ、いえ……」
これから起こること、それを想像して恐怖感が襲ってきている。ユアン王子は穏やかだというのに、私一人が青い顔をしているに違いない。
「ユアン王子がいつもと違うので戸惑っているだけです」
誤魔化すようにそう言うと、ユアン王子は苦笑した。
「そう見えるだろうな。さっきも、コーランから使用人室では俺の話で大盛り上がりだったと報告が来た。明日は槍が降るのではないかと」
「当然です。今まで冷徹の王子と呼ばれていたお方の、笑顔や柔らかい雰囲気を感じているのですから」
「まぁな」
ユアン王子は困ったような笑みを浮かべたままだ。きっと今までもこんな風な表情を見せることはそうなかったのかもしれない。
「俺はずっと呪いにかかったままだったから」
「呪い?」
「王子たるもの、国民には舐められたところを見せてはいけない。隙を見せたら王族としての気品が劣る。笑顔なんてもっての他だし、いつでも他者を切れる冷徹さを持ち合わせなければならない。そう教え込まれてきた」
そう話しながら遠くを見つめるユアン王子の目線が鋭くなる。何かを思い出しているのかもしれない。
「少しでも使用人と親しくしていると叱責が飛んだ。王子らしく振舞え、舐められるな、他者にも自分にも厳しくあれ。笑顔など絶対に見せるなと言われて、黙って従って来たんだ。その時の習慣や刷り込みが俺に染みついている」
「……それは国王陛下からの教えですか?」
ユアン王子は軽く話しているが、想像するとかなり縛り付けられた幼少期だったのだろう。
全てを敵のように感じ、本当の自分を見せられない。孤独だったのかもしれない。そしてそのまま育ち、冷徹の王子と呼ばれ人に心を開けなくなった。
「いや……。母親だ」
「女王陛下……」
今は亡き女王陛下は、国民は滅多にその姿を見たことがない。ただ、国王陛下をしのぐほど冷たく無慈悲だったと聞いたことがある。
そしてふと思い出した。



