お嬢様の代わりに冷徹王子に嫁ぎます

大きくて頑丈な門をくぐるとレンガ作りの大きな屋敷が立っている。王室の別邸だ。

別邸と言えど、その敷地は広大で別邸自体もラニマール侯爵家の屋敷の比ではないくらいに大きい。整えられた庭の隅には小さな小川が流れ橋もかかっていた。青々とした木々がとても涼しげだ。

「ジュアナ様とユアン様のお部屋は二階でございます。私ども使用人は一階の奥を使っておりますので、御用の際はいつでもお申し付けください」

コーラン様に部屋へ案内されるが、どうやらユアン王子とは隣同士の部屋のようだ。

一緒じゃなくてよかった。

内心ほっとする。

部屋は日当たりが良く、王宮の自室程ではないにしろかなりの広さがある。リリーさんは手早く持ってきたものをクローゼットに整理してしまうと、自分の荷物を置いた後お茶を入れに来ると言って出て行った。

部屋の窓を開けると先ほど通った庭が見える。しかし、馬車で通った屋敷の門はずっと先だ。外を眺めていても外を通る人からはこちらの様子が全く見えないだろう。細かい所に配慮がされている。

整えられたこの広い庭を眺めるのも飽きないだろうな。

窓からボーっと外を見ていると、コンコンと部屋の扉が叩かれた。リリーさんだろうか。お茶を持ってくると言っていたから両手が離せなくて困っているかもしれない。

「はい」

私はガチャっと扉を開けた。すると……。

「やぁ。お茶をしないか」

お茶道具を持って立っていたのはユアン王子だった。

やぁ!?

「ユアン王子!? どうして」
「リリーがお茶を持っていこうとしていたから俺が代わりに持ってきただけだ」

穏やかにそう返すと、ユアン王子は私の横をすり抜けて部屋の中へと入ってくる。そしてリビングでおもむろにお茶を入れ始めたのだ。

「王子、私が入れますから!」

慌てて変わろうとするが、やんわりと制止される。

「俺が勝手に持ってきたんだから俺が入れる。お前は座っていろ」
「しかし……」
「いいから」

穏やかだが譲らない様子のユアン王子に渋々頷いてソファーに座った。しかし、一国の王子にお茶を入れてもらうだなんて落ち着かないに決まっている。
リリーさんにお茶を入れてもらうのもやっと慣れてきたところなのに。

しかも馬車の中同様、穏やかな表情……。うっすら笑みも浮かべているし、これは本当にあのユアン王子なのかしら。

まだ替え玉疑惑が払しょくできていない。それほどまでに今日の王子は別人に見えた。

代わりにお茶を持っていくと言われたリリーさんもさぞ驚いただろう。使用人なんてユアン王子に話しかけられるどころか、その存在すら認識されていないとまで言っていたほどだ。今頃、使用人の控室で話題になっているかもしれない。